目が覚めたら

 何も装飾がされていない殺風景な天井に、薄い飾り気のないカーテン。


「なんですの……この、みすぼらしい場所は」


 ぼそっと口にした言葉が、なぜかひどく低い声だった。風邪をひいたのだろうか、とグレイシーは首を傾げる。

 すると、その飾り気のないカーテンが勢いよく開く。


「あ、起きたわよ、母さん」


 見たこともないほど真っ黒な髪の少女が、こちらを一瞥してすぐに後ろを振り返った。声が高かったので少女だとわかったが、彼女の髪はグレイシーには信じられないほど短かった。


 ――まるで殿方のような髪形ですわ。


「全くこの子は心配かけて。だから普段から少しは運動しなさいと……」


 そして、先ほどの彼女によく似た、けれど、優し気に微笑んだ女性が、カーテンの向こうから現れた。歳は重ねているが、美しく、そして彼女もまた漆黒の髪をしていた。オーガンジーのシュシュで一つに結ったその髪が、片方の肩にかかっている。


「だめよ、このデブ。運動どころか、学校にさえいってないんだから」

「こらっ、恵美。弟のことを、そんな風に言ったらだめでしょ」

「姉から恥ずかしいのよ! 同じ学校の私は、ほんと迷惑してるんだから」


 そう言って、活発そうな彼女はあっという間に出て行った。


「あの子ったら、小さい頃はあんなに仲良しだったのに。純、とりあえず入院届は出してきたから、今日は一日ゆっくり休みなさい」


 グレイシーは今、気絶しそうなほどテンパっている。驚きすぎて、なんのリアクションも出来ない状態だった。まず、ここがどこだかもわからない。

 少なくとも、自分の部屋でないことは確かだ。なにしろ、本当になにもかもが、びっくりするくらいみすぼらしいのだ。白いだけの天井に、白いシーツ、白いベッド。

 この世界から、色がなくなってしまったかのような恐怖すら覚える。


 ――それにしても、身体が動かないのはどういうことですの? とにかく、すごく重いですわ。


「あらあら、動いてはダメよ。幸い、骨は折れてなかったけれど、お医者様が奇跡だと言ってたわよ。あんなに高いところから落ちたのに、かすり傷程度ですんだなんて。冗談みたいな話だけど、今回ばかりは、そのクッションになってくれたお肉に感謝しなくちゃいけないわね」


 ――お肉? なんのことかしら。


 グレイシーは無意識に重い腕を上げて、自らの手を見た。


「な、なん!? こ、これはなんですの!」

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