sunrise sunrise sunrise
淀んだ空気と湿った匂いが漂っている。
自動車の走行音をBGMに、ひたすら隅田川沿いを歩いていた雲群一星。
『やはり、都市というのはある種の趣きというのがある』
「そうかぁ?」
『当たり前だ。歩くだけで様相が変わる。それだけでもこの都市は楽しめるというのはなかなか良い事だ』
「……」
散々褒めたいだけ褒めて、結局はこの世界を破壊する。全くこの神は本当に気まぐれのようだ。
『“お前は一体、何がしたい”とでも言うつもりか?』
イグニスの言葉に思わず足を止める。
あー、やっぱりテレパシーで聞こえてたのかよ。
『そうだな……俺は、まずはこの世界を楽しみたい』
「……は?」
『本当はこんな場所、真っ先に壊しても良いんだがな。俺の力はまだ完全じゃないし、何よりこの世界は壊すには勿体ない』
コイツ……正気かよ。不覚にもそう思ってしまう。
壊したいと動いているのは、何よりもこの神なのだ。
それが……楽しみたい?
イカれてるにも程がある。
あまりの言葉に呆れ返っていると
『待て』
ふと、イグニスが何かを感知した。
「イグニス……?一体なにを?」
『少女、ちょっと身体を貸せ』
返事を返す暇もなく、身体をイグニスに乗っ取られる。
「『よし、少しだけ俺の時間としよう』」
一拍の息を吐いて、少女に憑いた古神は、指で印を結び詠唱を始める。
「『
「『完全解除、顕・
掌印を結んだ彼女の目の前に、三重に浮かぶ炎の円が現れる。
「なんだよ、コレは……」
『俺の
あの時はミステリーサークルのようなものだと思っていたが、イグニスのは少し違っている。
それでも、明らかに“それだけ”で済まされるレベルではない。
「てか、なんで聖域なんか……!!」
『黙れ。敵が来るぞ』
身体の内のイグニスが強制的に口を閉ざさせる。
『すまんな、こうせざるを得ないんでね』
独り言のように虚空に謝罪しながら、彼女は空を見上げる。
隅田川上空、聳え立つスカイツリーや環状線、様々なビル群の上に映る巨大な影。
少女が立つ、その真上。
まるで、それを狙っているかのように、青いキャンバスのような空に影が浮かんでいた。
『違うな。アレは影ではない』
少女は目を細めて、影を凝視する。
羽音を立てて飛び交う数万もの虫の群れがそこに集中していた。
『やはり、お前か。
大小さまざまな虫が塊となってやがて一つの異形へと変貌する。
透けた羽が何重にも重なり折りたたまれていく。
黒色の外殻が、真夏の太陽に煌めく。
『……VVVVVVVVV』
呻きをあげながら、【蟲神】は燃ゆる瞳を持つ少女の前に立つ。
東京、浅草。
隅田川沿いにて黒き巨王、【蟲神】ベルセファブルが顕現する。
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