知恵の獣骸、狂い狂わせ、喰い喰われ

 北千住へと移動した獣の王は、街中に現れる【蟲神】の眷属を蹴散らしていく。

 獣の王は、腕に骨で製られた大型の爪を振り回して蟲の外骨格を砕いていく。


 “終末世界外典”

 それは、一定の条件を達成すると完全解除が出来る獣の王の秘技。


 第一の封印エフェソスは、契約者である吉崎大の精神欠落によって解放され、詠唱すれば封印の消失と共に獣の王の力は一段と増す。

 そして、契約者が被る持続的なダメージも一段と強くなる。


 吉崎の身体に纏わりつく黒い靄が皮膚を食い破っていく。

 耐えがたい痛みに悶絶するが、靄により口を封じられており声が出てこない。

 叫ぶ事さえも許さないのだ。


 終末世界外典の封印は全部で7つ。

 一つ剥がれると獣の王が一段覚醒すると同時に靄の苦痛は一段上がる


 7つ目になれば、器である吉崎は死ぬ。

 彼は自らが死ぬ事を知らない。

 ただ、それでも己が使命である“神を殺す”という事を忠実に従っていた。


 そして、その使命を邪魔する新たな勢力が現れる。


「あれが、原初の獣。私たちの殺害対象ね」

「見たところ強くは無さそうだが……」

「外見だけで惑わされないで。奴の1番の強さはその学習能力にある」


 すらりとした細長い体型の男と黒いエナメルスーツを身に纏った壮麗な女性。


「AIのメカニズムと同じ。人間が作り上げたデータを学習しデータを取り込む事によって、そのデータとほぼ同じデータを作る事が出来る。イラスト生成とかが顕著な例よね」

 淡々と語る女性。

「つまり原初の獣“狂”は、人を喰らって人になろうとしている」

「……なるほど、なら獣である今がちょうどいい機会という事か」

「獣の王の宿主は、殺さないで。彼もまた善良な一般市民の一人よ」


 女にそう言われた男は腰から大型のサバイバルナイフを取り出し、それを逆手に構えて戦闘態勢に入る。

「いい?私たちの任務はあくまでも生存する事。死んだらそこで終了」

「……分かってはいるが、いざ対面すると酷だな」


 男は目の前の黒い靄を見据える。

「おそらく……せいぜい2分が限度だ。それまでに調整出来るか」

「いけるわ。ただ多少の誤差は勘弁して頂戴」

 彼らの制服に掲げるは勇気を司る天馬ペガサスを模したマーク。


 獣の王が知るはずがない。

 吉崎大も、立神ケントも、原初の竜も、雲群一星も、旧き太陽神も。


 ましてやこの東京の、この日本の人間が知るはずがない。

 当然だ。

 彼らが、つい先日承認されたばかりの自衛隊に変わる異常現象への対抗組織。

 “非現実事象Un-Real Events鎮圧隊suppression squad”。

 通称URES'sユーリスなのだから。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る