狂劇
胎動、融合、乖離。
魔力は流れる。
ゆらゆら、川の流れの様に。
流れをその身に託して揺蕩うか。
それとも、流れに逆らって立ち続けるか。
新宿区 駅前。
道路上に巨大なカマキリが闊歩していた。
翡翠色に輝く外骨格の鎧を纏い、ギョロリと巨大な複眼が人々を狙っていた。
カマキリは既に何人か人を喰らっており、カマキリの周囲には欠損の激しい死体がいくつも転がっていた。
人々は、車をバリケードの様にして道路を塞ぐがほとんど無意味。
「自衛隊は!?」
「ほかのとこの対応で手をつけられないらしい!」
「なんでだよ……!!くそ、誰も助けてくれないのか!?」
喚きながらもカマキリの侵攻を防ぐ人々。
だが、人々は銃なんて持っていない。
巨大なカマキリに対抗する術など一つもないのだ。
鎌がバリケードがバキバキと崩していく。
「しまった!!」
「もうおしまいだ!」
絶望した人々が神に祈る中、一つの影がカマキリに襲いかかる。
「な、なんだぁ……?」
「一体何が?」
土煙が晴れ、姿が見える。
それは、得体の知れない人型の影だった。
「Urrrrrrrrrr……」
黒い靄を纏ったそれは巨大なカマキリに敵意を向ける。
そして、「rrrrrararararrrraaaaaarararararra!!!!」
猛々しい咆哮が新宿に響く。
それが彼の、
ひとしきり吠えた後は、両腕を骨と毛皮で纏い、禍々しい爪を造りあげた。
「aaaaaaaaaaaaaarrrrrrrrrraaaaaa!!!!」
咆哮を上げて、剛爪をカマキリの頭部目掛けてに殴りつける。
カマキリは、鎌のような前脚を使ってその攻撃を防ぐ。
「貴様は、原初の獣か」
カマキリは逆三角の頭部を左右に揺らしながら、黒い靄を見つめていた。
「星が製った神殺しの装置と聞くが……顕現したて、まだ未熟の様だ」
ブゥゥゥゥン——!!
背後から聴こえる羽音に獣の王は後頭部に鷹の目を開く。
しかし、羽音の正体はもうそこにはいない。
「上じゃボケ」
影が、獣の王を覆う。
「制限解除、
真上から重量が獣の王にのしかかる。
ギロリと鷹の目が向いた先にはトンボが飛んでいた。
そして、王の頭部にぶつかったのは巨大なダンゴムシだった。
獣の王はダンゴムシを掴み、アスファルトへとぶつける。
アスファルトはめり込むばかりだが、ダンゴムシが潰れる様子はない。
「制限解除、
カマキリの斬撃が獣の王目掛けて飛んできた。
気づいた時には既にダンゴムシを掴む腕が斬れていた。
「センチピードは原初の竜に瞬殺されたと聞いたが、どうやらコイツはそこまで強くないらしい」
カマキリが鎌を擦り合わせる
「じゃが、原初なんは変わりありゃせん。油断は禁物じゃ」
トンボがホバリングしたまま、獣の王を見つめている。
「オデののしかかり……効かなかった」
ダンゴムシが丸めた軀を伸ばして起き上がる。
「urrrrrrrrrr……」
3体の巨大な昆虫に警戒心を高める獣の王。
一方で、中の吉崎は苦痛に踠いて、呻いていた。
外から突き刺さる靄の痛みと内側から膨れ上がる苦しみに押し潰されている。
人の皮が破れれば、こうも痛むとは思わなかった。
いや、誰だって身体に硫酸をぶっかけられて平気な顔ができる訳が無い。
それと同じだ。
裂傷か、爛れるほどの火傷か。
数ある傷の中でも例える事は出来ない。
分からない、形容しがたい痛みが身体中を駆け回る。
でも一つだけ分かる。
僕はこの苦しみを辛いと思っていない。
むしろ清々しいとまで思っている。
そうだ、言い換えるならキマっていた。
自分の、自分による、自分の為の讃歌。
怪物と化した自分自身を礼賛し、妄信する。
愚行であろうとも彼の頭の中にはそれすらも考えていない。
だから、この状況で彼は笑っていられた。
「aaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!」
今日いちばんの咆哮が真昼の新宿に響く。
切断されたはずの腕が生えてくる。
黒い靄は噴き上がり、王の背後に翼と尻尾を生やす。
靄は、まるで意思があるかのように蠢いている。
苔、黴、菌。その微粒子の生命の全てがそこに集っている。
「まだ強くなるか!?」
「やはり原初、只者じゃないの……」
「オデ分かる。コイツ、さらに強くなってる」
一頻り咆哮を終えた後、獣の王は路上の巨大昆虫達を一瞥した。
「ベルセファブルよ……貴様の司祭はこの程度か」
ただ、その言葉だけを放って獣の王は再起動する。
「完全解除、終末世界外典・
その時、新宿に何が起きたのかは分からない。
その場にいた人間も、巨大な虫も、地面も建物も塵一つ残さずに消失したのだから。
獣の王の半径1キロメートル内の何もかも全てが、消えていた。
地面に大きなクレーターを残して。
「rrrrrrrrrrr……」
獣の王は、つまらなく唸って新宿から消えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます