カラクリズム、デストラクション

 深夜2時。

 渋谷では異常事態が起きていた。


 スクランブル交差点では39歳の男性が通り魔に刺され死亡。

 それを引き金にスクランブル交差点にトラックが歩行者に突っ込み、8人が死亡。

 加えて、トラックの運転手が発狂して逃げ惑う人々をナイフで刺し殺し、4人が死亡した。


 逃げ惑う人々の叫びで満たされる渋谷。

 渋谷周辺では、阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。


 とあるオフィスビルの屋上で、人影がこの都市圏の未来を見据えるように、或いはように、東京の夜景を眺めている。


 雲群一星くむらかずほ。【太陽神】イグニスだった。


 池袋。

 街の喧騒から切り離されたかのような暗い路地に、一人の男がいた。

 消えかけて、点滅している路地裏の灯りをぼんやり見つめながら足元をふらつかせていた。


 酔いが回り、気分が良く喉から出るしゃっくりさえも気持ちいい。

 彼は有頂天であった。


 ごぉぉぉ…

 いやに冷えた夜風が男の背中を舐める。

 驚いた男は振り返る。


 そこには、巨大な機械の塊がいた。

「……ガ、ガガ……ギギギ……ガガガガ」


 そこからは、何もない。

 路地裏にミンチ状の肉片が転がっていただけの事。

 小さな肉塊を蝿が貪っていただけだ。


 池袋での異変は、起きていた。


 池袋駅周辺で失踪事件が頻発していた。

 しかも凶器はなく、現場にはいつもミンチ状の肉塊が散らばっていた。

 カラーギャングによる連続殺人という形で警察は捜査を行なっているが、あまりにも不可解な失踪に全く捜査が進まなかった。


 日付を跨いだ途端に失踪者が増加し、さらには削られていたり、両足を切断されて死体まで現れ、事態は凄惨さを増していた。

 そして、カラーギャングにも被害が及ぶ。


 異変に気づいた時には遅かった。

 池袋内で事件の捜査をしていた警察官までもがが殺されたのだ。


 現在、死者43名(内、警察官6名)。怪我人67名。

 豊島区の池袋の中で収まり、未だ区外へは出ていない。

 しかし、失踪は続く。

 少なくとも———池袋では、厄災が起きていた。



 ——公園に何かが散らばっていた。


 何かはわからないが、腐った肉の臭いまでしていた。

 カラスが群がっている。

 不思議に思った1人の男が公園の奥へと進んでいった。


 人が死んでいた。

 眩しい光がを映す。

 

 死体はビニルの配線が繋がれた巨大なクレーンゲームのアームに掴まれて釣り上げられていく。

 その先には、ゴオンゴオンとグラインダーらしき鋭利な牙が低い音を轟かせて回転している。

 

 アームが死体を話すと生肉が、潰れて、挽かれていく。

 飛沫と共にバキバキと咀嚼音の様に骨を砕き、人間を貪っていた。


『アレは、ただの——』

『今夜のプレイリストは』

『炎がゆらゆらと燃えている』

『おお、神よ!!』

『我々はここにいる』

『我々』『は』『粛正の為』『に』『降臨』『した』

『現代の』『利器』『我ら』『抗議しているとの事です』


 断続的な単語で、喋り続けるラジオ。


 ザザ——ザ……ザザザ。


『d、d、d……ド、ドラ……ドラゴン』

 嵐の様な雑音のみが残る。

 ギチリ、ギチリと何かを軋ませる。

 

 震えるエンジン。

 唸りをあげて躍動している。


「……」

「…………」

「………………アア」


 それ錆びた巨体は、軀全体を脈打たせて蠢いていた。

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