立神ケント(2)
翌日。
立神ケントは、今日もまた渋谷へと繰り出していた。
真夏の暑さの中で、また粗雑な混ざり方をした都市の中を歩いている。
ドラコはただその隣をパタパタと飛んでいた。
今日の東京も快晴だった。
『昨日未明から発生する都内某所で謎の連続不審死事件について、警視庁は……』
電光掲示板には、最近のニュースが流れている。
「……ホントに神はいるんだよな」
ドラコから出た言葉をずっと疑い続けた。
昨日の言葉が忘れられなかった。
「まぁ、神っつってもこの世界——お前の考えてるような神やないけどな」
「化け物みたいな感じって事か?」
「まあ、そうやな。八百万の神って言葉、知っとるやろ?」
「まぁ……うん」
八百万——この世界の全てに神が宿っている。
食べ物であろうと、空気であろうと、便所であろうと、その何もかもに神がいると考えて祀ろうという考え。
「例えば、その八百万の神がこの東京を粛正する為に顕現し始めているっつったらどうや?」
「しゅ、粛正?」
思わず聞き返してしまった。
ドラコは、コクリと小さな頭で頷く。
「前に、お前が立ち向かった相手おるやろ?あのでっかいムカデ。アレはムカデという虫に宿った神。【蟲神】ベルセファブルの眷属や。眷属ってのはボスである神の手下の神ってヤツで、人間を殺戮する為にああいうのがいっぱい現れるんや。それは【蟲神】だけやなくて他の神にも言える。せやからワイみたいなのはその神を眷属ごとぶっ倒さなあかんねん」
よく分からない単語を口にしては身振り手振りを使って喋り倒すドラコ。
ケントにはもう何がなんだかよく分からない。
とりあえず、倒さないといけないらしいというのだけは分かった。
「とにかく人は、人と争い星を壊す。それを見かねた神が人を滅ぼす。せやからワイが神を殺して人を守るんや」
まとめられても、言っている意味がさっぱり分からない。
ケントは夢でも見ているのかと思ってしまう。
突拍子のない、荒唐無稽な夢を。
だが、それが夢でないという事をすぐに思い知る。
路肩から現れた巨大な鋼鉄の人形。
頭上には歯車の形をした光の輪が浮かび、ただの兵器ではない事を悟らせていた。
……デカい。
頭部が、見上げるほどに上にある。
隣のビルと同じぐらいの身長の人形が、そこにいた。
『解析。体内に魔力を確認。イレギュラーと判断——アンブロバシリカの回答、処分命令を承認。排除を執行』
巨大な人型の鉄塊は、足元に見えた少年の姿を視認して、赤い光を灯らせる。
「なんや。【蟲神】かと思ったら今度は【機神】の手先かいな」
「【機神】……?」
また訳の分からない言葉を。
「細かい話は後やな。先にコイツを倒さんと始まらん」
倒す。
ドラコの言葉に、ケントの体は震えていた。
倒すだって?俺が?あんな巨体を?
出来るわけがない。
「10分」
ドラコが呟く。
「10分でええ。ワイに体を貸せ」
「お前が一体何かすら分からないのに、信頼出来るわけがねぇだろ」
ドラコを睨む。
「なんの運命かは知らんが、ワイはお前とここにおる。そこに信頼も何もないんや」
言葉に詰まり、渋々頷く。
「でも、俺はまだお前の事を信用してないからな」
そしてケントの中にドラコが入り込む。
『対象の魔力増幅を確認、危機対処レベルⅢへと移行。速やかに排除を執行します』
機械人形の巨大な拳が振るわれる。
しかし、ケント——ドラコは静かに掌を人形へと向ける。
「
掌から生まれた爆炎が、機械人形の拳を、そして全身を瞬く間に焼いていく。
『警告、炎熱によるダメージ損傷。アンブロバシリカの回答——自壊命令を承認』
機械人形は自らを焼く炎に対抗せず、その巨体を崩壊させていく。
燃え殻となった屑鉄が再び動くことはなかった。
「ありゃ、10分はさすがに余り過ぎやったな」
ドラコがケントの外から現れ、焦げた鉄屑を眺める。
「今のは…?」
「ワイの力や」
「ドラコの……神を殺す為の力って事か?」
「まぁ、はっきり言えばそうや。そんで、神殺しはワイ以外にもおる。だが、そいつらが仲間になるとは限らんねん」
ドラコはその小さな身体を振り向かせて、ケントの方を見た。
「つまりは、ワイとお前でこの世界の人間を守るんや」
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