そして、歯車は回って
静かさや、這い寄り出でる、機(からくり)の
唸り声が響く、午前2時の交差点。
あまりにも静かすぎる街並みを、月は密かに照らしている。
ただ信号のみが点滅を繰り返す。
夜の帳はすでに下ろされ、無が漂っていた。
夜が明ければ、また騒がしくなる。まるで嵐の前の夜と似ていた。
『ザ……ザザ……』
ただ、この日はいつもとは少々異常な様相を呈していた。
野太い犬の鳴き声、カラスの鳴き声、ドリルの回転音、何を引きずる音。
エンジンの振動音、携帯の着信音、パソコンの起動音、ラジオの雑音。
絶える事のない足音、自動車の走行音、列車が走る音。
音、音、音——。
日常にありふれた音がそこに集中する。
互いに蠢き合いながら奏でられる下手な合唱を真夜中の渋谷に轟かせていた。
『ザザ……え〜世界というのは、かくも奇妙なものとございまして……』
電波をキャッチしたラジオが、番組のコマを流しはじめる。
ギギギ、ガガガ……
錆びた金属がこすれ合う不快な音が深夜の浅草に轟く。
月が灰色の雲に隠れる中、
動き、歩く。
ギジリ、ギジリと関節部分を軋ませながら。
アスファルトの上を踏み締めて。
何かを求めて徘徊していた。
『人を楽しませる。それが自分の役目ですね』
ザザ…
『速報です。宮城県上空に謎の飛翔物体が落下しているという事です。政府は……』
ザザ……ザ……
『1998年……』
ザザザ……ザザ
『銃が』
ザザザザザ……
『正解はイエローストーン国立公園でした!!』
『ドラマ“太陽に吼えろ”』
『拳銃が』
『俺を』『わたしたちを』
『襲う』『殴る』『弄る』『屠る』『謳う』『狂う』
『忘れるな』『過去』『の』『栄華』
『可能性』『ある』『べき』『未来』『確約』『された未来』
チャンネルが何度も何度も変わるラジオ。
途切れ途切れに出てくる単語は、何か意思を見せるかのように一つの言葉を紡いでいく。
『……を
——生きて、イヤで、死んで、デデ……生ぎる、ぎるイキル為に……がア、在る、いる、或る、要る、イイイアアアアイ……』
未だ知らぬ大地の上で軋む巨大な軀を滑らせながら。
『ザ、ザザザ、ザザ……d、ウ……ス………k……ナaaaaaa……』
ノイズが更に増していく。
やがて、それは闇の中へと溶けていき、再び深夜の静寂が訪れた。
また陽は昇る。
そして、東京の街並みは再び
それまで、錆びついた身体を震えさせながらまた闇の中へと潜っていった。
地球に於いて、
文明は絶えず進化する。
退化などあり得ないし、あってはならない。
しかし、文明によって生み出された利器はいずれ何処かで捨てられる。
進化していく過程で不要になったモノは排除されるべき存在である。
もしも、その“モノ”に思考があったならどうだろうか。
自らを使い潰し排除していく人間という存在をどう思うのか。
“彼ら”は執行者になれる素質がある。
人間の手で造られたあまりにも単純で凶悪な、
レンズ越しに見える無機質な月明かりは、まるで啓示のように“それ”を照らしていた。
——【機神】アンブロバシリカ。
その胎動は、東京の夜に沈む。
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