雲群一星
———■が視える。
教会らしき場所の木製の椅子に少女が座っている。
「神様なんか嫌い。お母さんのこと見捨てたくせに」
「……」
「あなたは、あなただけはずっとそばに居て」
抱き着かれた小さな体に包まれて、教会が白く染まっていく。
「はっ!!!」
目が覚めると見覚えのある天井があった。
ここは……家?
いや、確かオレは身体を光球に貸して……
「夢じゃねえよ。これは現実だ」
声がした方を向くと赤髪の青年がそこにいた。
「……!!」
「俺だよ。イグニスだ」
一瞬戸惑ってしまったが、
「イグニス!!お前ッ!!!!」
ベッドの上から飛び出して
しかし、力が入らずベッドから崩れ落ちるだけだった。
「4日」
「……?」
「お前が寝てた日数だ。まるで死んでるようだったからな。起きてすぐに身体が動くはずがねえよ」
「そんなに……」
理由は分かっている。
この光の球が
だからこそ、コイツが許せない。
「お前、【聖約】を振り切ってまで俺を止めるとはな。余程あの狼に情でも湧いたか?」
「聖約?」
「俺と交わした契約だよ。お前の身体ん中で契ったアレだ」
「あんなものを契約なんて認めない!!だってお前は———」
「俺が
言葉が詰まる。図星の証拠だ。
「アレはお前を襲った狼だ。そして俺はその仕返しの手助けをしようとしただけだ。その話の何がおかしい?」
そう、思えばおかしい話だ。元々、自分を殺そうとしてたのはあのラルタルの方。
あの時にしっかり殺せば、平穏な日常に戻ったんだろう。
だけど、そうはいかない。
「オレが殺したいのは獣でも神でもなくて……人間だから」
「……人間を?」
馬鹿げた答えだろう。人間が人間を殺したいなんて願望がこの世界にあって良いわけがない。ましてや自称でも神である存在の前で、滑稽な願望を口に出している。
しかし、目の前の自称神はその言葉に対して真摯に聴いて、
「フッ……フフフ」
鼻で笑って、
「ギャハハハハハハ!!!!イーヒッヒッヒヒヒヒヒ!!!!アーハッハッハッハッハッハッ!!!!」
そして高らかに爆笑した。
「人間を殺す……アッハハハハハハ!!殺す!!殺すだとよ!!イヒヒヒヒヒ!!コイツはケッサクだぁ!!!!アッハハハハハハ!!最高じゃねぇかァ!!!!!ギャハハハハハ!!!!」
部屋中に響く光の球の笑い声。
だけど、別に殺意も何も起こらなかった。
当たり前だ。無力なオレには何もできない。こんな馬鹿げた夢に怯えてもらうよりも、盛大に嘲笑ってくれた方がまだマシだ。
「おもしろいだろ?だから別にお前の望むようなものは何もない。だから——」
「いや、望みならある」
光の球は数回息を吐きながらオレの近くに詰め寄った。
「もし、お前が己を犠牲にしてでも世界を守るヒーローみたいなヤツだったらそれこそ俺は目の前から消えていた。だが……ハハッ、お前は違うみたいだ」
「……どういう事だ」
光の球は、声を弾ませながら一星に言う。
「俺はお前の目的と同じだ。この星の人間を殺す。その為に俺は存在する」
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