初夏、東京
空気が重なる衝撃と違和感に多くの人々が行動を止めた。
違和感と共に、世界は混ざった。
そして、東京は異形の獣に襲われた。
異世界と呼ばれるファンタジー世界において典型的なモンスターが、東京の各地に現れた。
別次元から本土へと侵攻してきた怪物たちは、人間を襲い、喰らい、犯し、蹂躙する。
そして地球の大きな傷として歴史に刻む。
かの化け物たちの襲撃を“災厄”と称して。
現実と非現実が混在する中、人類は闘うことを決めた。しかしモンスター達の圧倒的な力を前に軍事力というのは小石程度にしか及ばず多くの犠牲が払われた。
そこから、数年の時が流れる。
次元衝突が起きた後でも、東京は相変わらず音がうるさい。
それは、発展の証だから別に悪くはないのだが、逆に今までとなんら変わらない停滞という現実を突きつけていた。
人々は行き交い、似たり寄ったりの形をした自動車が列をつくって走る。
空には飛行機以外にワイバーンやハーピーが飛んで、海では人魚やマーマンが打ち上げられていたりする。
次元衝突後の日本に現れた多くの生命体。
それも今や、日常の中に溶け込んでいた。
人類とモンスターは共存し合い互いに文明を再建していた。
一方のモンスター達は現代世界への適応が早かった。変な薬などを売りつけて成金になったゴブリン。土木工事に勤しむオーク。金を稼ぐ為に自らの体を売るエルフ達。
要するに適応していくうちに人間の営みと同じような暮らしをモンスター達もしていた。
多くのビルが群れを成し、天へと聳え立つ。
人々は交差点の上を歩く。
方向はバラバラだと言うのにどこか美しさも醸し出ている。
夜に生きる街は、今は閑古だが日が暮れるにつれて蠢き始めている。
鉄道も衰える事なく数分という間隔で人を運び、活発な活動を支えている。
何気ない日常の1シーン。
東京にはあらゆるモノが集中しているのは当然の事。
人も、建物も、交通も、情報も、流行も、政治も、科学も、技術も、軍事も。
人の持てる限りの全てがこの東京に集っている。
そしてもちろん、魔力も集中していた。
魔力とは、中世魔術による神秘の影響によって土地に溜まるモノ。
マナやらオドやらといろいろ種類があるが、それらを使用には霊脈が必要である。
神と魔術に関わる全ての土地が霊脈と接続出来る。
さて日本列島は神に造られた島。そして八百万の神と各国の伝説、伝承を受け入れ、莫大な霊脈が約2000年以上溜まりに溜まり続けた。
だが、その土地に眠る霊脈は長い間放置されたまま。
いわば日本の土地とは可能性の塊。
そしてその可能性を最大限に引き出せる土地。
それが東京。
ならば——東京という霊脈の宝庫を使わない手はない。
その考えを思いついたのは、人類に対する粛正の為か。はたまた、ただの愉快の為か。
真意は分からない。
ただ、東京に混沌を生み出せる事は確実に想定されていた。
現にそうなってしまったから。
人々は想像力を蓄えすぎたのだ。
だから放出しなければいけない。
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