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Encount “原初の竜”
——盛る煉獄の中、生まれしは灼熱の緋。
鱗を燃やし、
ひとつ翼を広げると燃える鱗を滾らせ太陽の様に輝き、一つ息を吐くと豪炎が逆巻く。
人類と共に、其は誕生した。
人類はソレを現象として観測し、やがて手に負えず、神として信仰した。
人間がいたからこそ伝承となり、神に近い存在となり、やがて全ての人間に近づいた。
“其”は知っていた。
己の持つ役割を。
起源となり、人と神を繋ぐ道となり、人を潰す神の武器となる事を。
絶望、或いは勇気の象徴になるという事を。
そして、全てを滅する厄災だという事を。
8年前の夏。
首都高速環状線は曇天の中、自動車で埋まっていた。
車は不気味な程に整然とならんでいる。
そのどれもが、エンジンを鳴らす事なく静かに止まっている。
「はぁ…はぁ…」
その行列から遡るように一人の少年が歩いていた。
どのくらい歩いたのだろうか。足元がふらついている。歩く気力はもはや皆無に等しい。
「はぁ…ゲホッ」
周囲を見ても、自動車ばかりしかない。
そして、死体が窓に寄りかかっていたり、扉を開けて道路に落ちていたりと、様々な形でそこら中に腐りかけの死体がある。
湿った空気に腐敗した臭いが混ざり漂う。
今の少年にとっては棺桶が並んでいるも同然だった。
疲れ切った様子の少年が後ろを振り向いた。 果てしなく続く道路が蛇の様にうねっていた。
いくら歩いても終わらぬ道、永遠に続く無限の道。
少年はそこで力尽きた。
環状線の中に静寂が奔る。
異臭をかき消すように風が強く吹いている。
ふと、一つの大きな影が空から落ちてきた。
影はアスファルトの上でゆっくりと止まり、倒れている一人の少年を見下ろす。
重い曇天の中から一筋の陽光がまるでスポットライトの様にただその一面を照らす。
竜がいた。
燻んだ赤い鱗の竜だった。
その鱗はゆらゆらと形と輝きを変えながら揺蕩っている。
むしろ、竜という形自体を定めきれていない程に姿全体が揺らいでいる。
それでも、少年はまだ動こうと地面を這いずる。だが、地面を掴めずただ呻くだけになる。幼い少年は死に抗おうとしている。
竜はその少年を見守るように眺めている。
少年は、その竜の存在など知らず竜が彼の目の前に立っていた事も知らない。
しかし、彼はまるでそこに何かがいる事を分かっているかのように、声を、その言葉を絞り出す。
「た、すけて」
竜は揺らめく翼を広げる。
体中の鱗が紅蓮に輝く。
その姿は、まるで大地に顕現した太陽の様に。
停止した少年の身体は、その輝きに呑まれて、消える。
だが、輝きが消えた時、少年はアスファルトの上に立っていた。しっかりと2本の足で。
少年は背後を振り向く。ただ延々と自動車の列が並んでいるだけ。
そして何も変わらない様を前に、大の字になって倒れた。
清々しい程の笑顔を浮かべながら。
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