第一章 the lost bygone Fantasia

ファンタジアは突然に

始まり

 一般的なファンタジーの最大の目的。

 それは、魔王を倒す事である。

 数多のモンスターの亡骸を踏み越えたその先に魔王との激戦が待っている。

 しかし、人々は魔王を倒す前に異世界との邂逅を果たしてしまった。


[次元衝突]

 この一件は、その言葉で世界の歴史に刻まれることになった。


 そこから日本は...いや世界はファンタジー世界と混ざってしまった。

 陸海空のあらゆるところからUMA(未確認生命体)と呼ばれていたモンスターがどこからか出現したのだ。


 東京上空7000メートル。

 茨城、百里基地から4機のF-35がスクランブルによって発進していた。


 百里基地にF-35が配備されて314回目のスクランブル。

 清々しい青空の中をダイヤモンド隊形に維持して飛んでいく4機。


 スクランブルの内容は国籍不明機の領空侵犯。


 それも、東京上空。

 支那か、あるいは北の戦闘機なのだろう。

 いよいよ、東京まで赴いたとでもいうのか。

 場合によってはこのまま戦争にもなりかねないというのに。


 緊張で操縦桿を握る手に力が入る。


 だが、F-35のパイロット達が見たものは想定を遥かに上回ったものだった。


『前方に複数の熱源反応!!』

『あれは……なんだ?』


 支那でも北の戦闘機でもない。

 生物がそこにいた。

 大きな翼をはためかせながら、戦闘機の方へと飛んでいる。


 前方から現れたのは、極彩。

 青空の中に移る鮮やかな色がはためいていた。

 そして、目に移るのはそれだけじゃない。

『おいおい……俺は夢でも見てるのかよ』

『お前もか?俺だけじゃなかったか』

『マジかよ。お前らも同じのが見えてるのかよ』

『揃って夢見てんだ……じゃねぇとこんなのあり得ない』


 4機の戦闘機が目撃したのは……ワイバーン。

 一体だけではない。

 何体も群れて飛んでいる。

 

『どういう事だよ……コレ』

 日本に、いやこの地球に存在しないはずの架空の化け物が空を飛んでいる。

 我が物顔の様に悠々と。

 それが特撮の何かであって欲しいと皆思っていた。


『まさか、下も……』

 しかし、そんな事を考えるよりも先に目の前のワイバーンをどうにかしなければならなかった。


 既に火球を吐いていたからである。


『っ…!!戦闘用意!!』

 4機のF-35はそれぞれ散開し、火球を回避する。

『マジかよ!!ドラゴン相手に攻撃しろって事か!!』

『ドラゴンじゃない、ワイバーンだ』

『どっちも変わらねぇよ!!』

『つべこべ行ってないで戦闘だ!!戦闘!!』


 25ミリ機関砲がワイバーンに向かって放たれる。

 だがワイバーンはその弾丸を跳ね返す。

『弾は効かないって訳か!!』

 カウンターに圧縮熱線を4機の中の一つに浴びせる。

『くっ、回避ィッ!!』

 バレルロールで見事に熱線を躱す。

 しかし、これで敵も相当な強さを持つ事がはっきりと分かった訳だ。


 これ以上、気を抜いて仕舞えば最悪死ぬ。 


 ワイバーン相手にステルス機能は通じない。


 だが速さではF-35の方が速い。

 どこまで力量で潰すかが鍵となる。


空対空赤外線ミサイルAAM!!』

 翼に付けられたミサイルが飛び出す。

 水平に推進していくミサイルはワイバーンの一体に激突し、爆発する。

 ミサイルの直撃したワイバーンは首が抉れ、静かに地面へと落ちていく。

 

 『まずは1匹ィ!!』

 しかし、ワイバーンの一体が機体を脚で掴んだ。

 『ま、まずい……!!』

 ワイバーンは強靭な顎でコックピットを噛み砕いていく。

 機体は音を立てて爆散する。

 残り3機。

 だが息吐く暇もなく、もう一機が撃墜されてしまう。

 ワイバーンの圧縮熱線が機体を貫いたのだ。


 『クソ!!やられた!!これ以上落とされたらたまったものじゃない!!』

 機体を翻らせ、撤退を行う2機。

 だが、ワイバーンはそれを易々と見逃してくれる程に情などを持ってなかった


 背後から、放たれる圧縮熱線。

 しかも一つではなく複数。

『こんなの、避けられる訳が……!!』

 灼熱の赤光が機体を貫いていく。

 撃墜。残り一機。


 『クソッ、クソッ、クソッ!!』

 逃げる。全力で逃げる。振り払え。あのバケモノを振り払え!!

 だがワイバーンの熱線は依然と続いたまま。

 避けられているだけでも幸運だ。

 

 パイロットは操縦桿を必死に握り締める。

 やがて光線は止み、逃げ切れた事に安堵感とあり得ないものを見てしまったという恐怖心を抱えて基地へと帰っていった。



 現実と非現実が混在する中、異世界の侵略は止まらなかった。水面下での交渉は全く成立する事がなく、異世界間で小さな戦争が起きていた。

 しかしモンスター達の力は現代国家の圧倒的な軍事力の前には小石程度にしか及ばず、両勢力は多くの犠牲が払われた。


 やがて、不毛だと気づいたのか短い戦争は終わり、共に復興の道を歩んでいた。



 ——止まったままの歯車が動き始めたのは、およそ8年後の事だった。


 

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る