いずれ神話になる君へ 〜東京厄災聖戦〜

現代

立神ケント

『TRスタジオからお送りしておりますジャンクステーション。今週のテーマは……』

立神ケントは部屋でラジオを聴いていた。　

　何も趣味でラジオを聴いているのではなく、ただの情報として垂れ流されたラジオを耳に入れているだけなのだが。

　そんなラジオを他所（よそ）に、ケントはふと顔を後ろへ向ける。　

　そこに自分と瓜二つの顔が間近にあれば驚かない訳がない。

「うわっ！いつの間に！？」

「ずっといたわボケ」

　そう、もう一人の自分。顔から髪型から体型から、何もかもが鏡で写したかのようにそっくり。

　しかし口調は関西弁のような訛り方、眼光はケントよりもギラリと輝いていた。

　コレがドラコ。名前はドラゴンからきている。

（そのまま過ぎる）と内心は思っているが自分ではセンスの良い名前など付けられそうにない。

「てか、ちょっとは……離れろよ！！」

　そのドラコの顔面をがっしり掴み、無理矢理距離を作る。

「ちょっ、お前……自分の顔をそんなに扱うんか！？」

「流石に同じ人間が2人はねぇだろうがよ！！」

「双子って思うたらええやろ」

「もっと嫌だよ」

「お前、はっきり言うたな……コッチが傷つくわ」

　あからさまに嫌そうな顔をするドラコ。

「ったく、しゃーないなぁ」

　ドラコは仕方なさそうに宙返りをして、羽の生えた小さな赤いトカゲに変身する。

(こっちの方が可愛げあっていいんだけどなぁ…)

「コレでええか？」

　嫌な顔をしながら羽をパタパタさせて飛ぶ。

　見てくれはよくあるマスコットのような2頭身、止まっていればもうただの人形にしか見えない。

「嫌やねん、この姿｡ショボいし」

　そんな事をぼやきながらため息まじりに小さな火の玉を吹く。

　ビー玉大ぐらいの火の玉が壁にポスンと当たり、そこだけ黒くなる。何なら薄く煙も上がっている。

（……ホントに弱いのかそれ）

「そんな事より。ドラコは急に現れて何がしたいんだよ」

「……せやなぁ」

『今週のジャンクステーションはここまで。それではまた来週！』

　ちょうど番組がキリよく終わってくれたので、ケントはラジオを切る。

「はじめに言うとな、ワイはドラゴンや」

　堂々と胸を張って言ったが、見たら分かる。

　というより用はなかったのか。

「いや、そんな事は分かってる」

「あぁ？」

「お前の目的は……なんだって事だよ」

　ドラコはうーんと唸り、小さな手を組んで考える。

　そしてあっけらかんな表情で、呟いた。

「ワイは、この世界にある神を殺しにきた」

　部屋の中に、静寂が広がる。

「……神を、殺しに？」

「せや、ワイが神を殺す。その為に次元衝突が始まった時から、ワイは東京におる」

「待て待て待て待て」

　さっぱり意味が分からない。

　一体、何を言い出すんだ。

「神を殺すって、どういう事だよ。神様なんて、それは信仰とか信条の問題じゃないのかよ」

　だが——ドラコはさっきまでのにへらとした表情を引き締め、告げた。

「神は、おる。次元衝突でこの東京に現れた神が」

　ドラコの瞳は、ギラリと部屋の明かりで輝いていた。