第二章 modern neutral

洞窟内、焚き火前

 空白の幕間、というものがある。


 読んでも構わないし、飛ばしてもあまり支障は来さないってヤツだ。

 この話はメタでしかなく、何も関係なんてない。

 そこに俺は介入しているだけ。


 紹介が遅れたな。


 どうも、観測者オブザーバーだ。


 ただ観測するだけで、介入も干渉もしない。

 役割といっても、仕事ではなくただの趣味というものだと思ってくれ。 


 さて、突然だが、少し話をしよう。


 次元衝突。


 異次元の別世界が接触した事によって地球の中に溜まった残された自然神代の神秘が貪られている。


 星の持つ理が崩壊するのも確かにあるさ。

 実際、地球で証明できない不可解な異常現象が2%から34%に上がっているからな。


 だが、そんなのは些末なものにすぎない。


 科学では証明できない現象は必ず何かしらの方法を使って対処ができる。

 多次元であろうとも宇宙に存在する法則の領域外になる事はないんだ。

 それが魔術であろうと、呪いであろうとも。


 では一体何が問題なのか。

 答えは神秘の完全消失。


 神秘というのは過去の蓄積、土地の神格化、人の崇拝によって創り出されるものだ。

 言ってしまえば“架空でありながら、遥か昔から存在したもの”。


 国を挙げて神を崇め、奇跡を眺め、不死を求めて魔術を極めようとした。


 でも、結局は不可能だった。

 決して至る事が出来ないとされてしまった。


 神や悪魔なんてものは存在するはずが無いし、魔法があるわけなんてない。

 近代以降になって人々はそう捉えてしまった。

 その時点で神秘の蓄積は終わっていた。


 今も神を崇拝をする者がいても、相対的にはスマートフォンを眺めている人間の方が多い。

 魔術よりITを追い求める人間の方が多い。

 奇跡よりも核ミサイルを使えば簡単に人間を平伏させられる。

 世の中は変貌した。


 “神は死んだのではなく始めからいない”。


 この考えに人々が囚われた今、世界に潜む神秘が完全に消滅してしまえばこの世界に刻まれた過去が消えてしまう。


 そして、連鎖的に人間の歩んだ過去が消えこれから歩む未来までもが消える。


 みんな跡形もなく消えるんだ。


 古代から続いてきた神秘は停止した。

 だが、神秘の蓄積は止まっただけで神秘が減る事がなかった。扱う人間がいなかったから。


 しかし、次元衝突により魔力が浪費されていけば神秘はすぐに消える。


 ……おっと、もうそろそろ夜が明ける。


 俺がいるのは、星見の洞窟。

 と言っても見えるのは星ではなく魔素マナの結晶なのだが、今は関係ない。


 さっき次元衝突で星に溜まった魔力が浪費されていくと言ったのだが、少し視点を変えよう


 次元衝突という現象は二つの世界がぶつかる現象の事。

 では、もう一つの世界にも同様神秘があるはずなのではないか?

 

 答えは部分的にYESだ。

 部分的な理由は、向こうの世界が地球と比べて発展が遅れているから。

 つまりまだ神秘の蓄積は進んでいる。


 ただ、これがとんでもなく厄介だった。

 

 既に燃料の尽きたエンジンに新たな燃料を入れれば、また動き始める。

 腹を空かした人間に食料を与えると活発に動き始める。


 それが星の規模で起こった。


 その結果、予想外の反応が起きた。

 地球に意識を与えてしまったんだよ。

 地球が危険に瀕しているという意識を。

 そして星は内部に抗原体を作り出した。

 

 星内に存在する異物を排除するために生まれた“偽物のオリジナル”

 それが“原初”。


 星に抑止力というモノを与えたのは紛れもなく向こうの世界。


 君たちの言う、異世界。

 原初と呼ばれる理を体現した生命が現れたのも向こうの世界の影響さ。


 衝突した異世界の造った原初の存在は、地球の過去に刻まれた。

 改竄されたシナリオと共に。


 虚無の星に落ちたるは2体の原初。

 破壊を司る竜と創造を司る獣

 星は破壊の持つ闇と光と炎のみ。


 そこに創造の持つ水と風によって海と大地が作られる。

 雷で大地を抉り、岩群を作る。


 大地の上に森を作り、命を生み出す。

 生まれた獣は星の子として母なる大地を駆け回る。


 水中に現れた獣が揺蕩い、新たな命を撒き散らす。

 水はやがて海と呼ばれ命は優雅に水の中を泳ぐ。


 獣から人が生まれ、人は人を生み、そして争う。争いからは何も生まれず、ただ人々は滅びの道を徐に歩み出している。

 星を破壊しながら……


 見兼ねた神は、星が壊される前に人を滅ぼそうと決めた。

 星ごと、だ。


 原初というのは地球の抑止力という上で成り立つシステム。


 粛正を止めるために原初は神を殺す。


 そう。この戦いは人によって引き起こされた。古き愚かな人間達が引き起こしたまるで意味のない聖戦。

 ただ、人はもう関われない贖罪の歴史。


 全ては虚構であり、架空だ。

 これまでも、これからも、全てが幻想ファンタジアでしかない。


 そこに彼らは巻き込まれた。


 ただそれだけなんだ。

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る