キヨシ、めげずに再び改稿
主人公のカイは十三歳の少年。
皇帝が城の従女に生ませた子である。
しかし、皇后が生んだ男子が健やかに育った頃、出自を伏せて山奥の村に預けられた。
その村も、帝国から理不尽な罪を着せられて滅ぼされた。
カイはなんとか逃げ延び、親切な老夫婦に出会う。
その夫婦と暮らし、すくすくと育つカイ。
また彼は読書もおおいに愛し、四海のあらゆる学問に精通した。
いつしかカイは「山中に伏龍あり」と噂されるほどの天才に育っていた。
「じっちゃ、ばっちゃ、おら東京さ出ようと思っとるがや」
「東京はまああかん。汚れとる。とろくさいビョーキが流行っとる」
たくましく成長したカイは、老夫婦の制止も振り切って帝国の首都、東京へと乗り込む。
滅ぼされた村、優しかった人々の仇を討つために。
しかし、暴力に訴えてことを起こせば、生き延びても罰せられる恐れがあり、最悪で返り討ちにあう。
そのために彼は、株取引で資金を蓄えて、帝国の通貨を暴落させるほどの為替操作を行った。
のちに、悪夢の火曜日事件と呼ばれる大恐慌の始まりである。
帝国は財政が逼迫し、兵士に払う賃金にまで苦しむようになった。
兵士はストライキを起こし、城の防備はガラガラになった。
城内には無人の戦闘用巨大ロボが無残にも放置されている。
ロボのメンテナンスや充電すら行えなくらい、城の機能は麻痺していたのである。
皇帝はすべてのことが嫌になり、かねてからの夢であったギタリストへの道を志すことに決めた。
城の裏口から出て行く皇帝にカイは出くわす。
「皇帝陛下、お久しぶりでございます。あの日、あなたの軍に大切なものを奪われた僕を覚えておいででしょうか」
「ああ、カイか。久しぶりだな。腹違いの兄よ。私を皇帝にするためには、きみの存在が邪魔だった。だから母上、前皇后は軍をけしかけてきみが預けられていた村を滅ぼした。しかし今、皇帝になった私が武器も持たぬきみに滅ぼされようとしている。運命とは皮肉なものだ」
「今こそ、積年の恨みを晴らします。でもあれです、暴力はいけないので、将棋で。昔、よくやりましたよね。僕がまだ城にいた、ほんの小さい頃」
「奇遇だな。もう一度きみに会いたい、将棋での決着を着けたい、そう思っていたよ。お互い、過去に縛られ続けて、今まで生きてきたのだな」
二人の実力はまったくの互角であり、いつまで経っても勝負はつかなかった。
白熱した勝負にギャラリーが集まってきて、荒れた帝国首都に活気が戻った。
彼らが指した一手一手は、皇帝棋譜と呼ばれて、その後長く将棋の教材に掲載され続けたという。
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