ロッポーちゃんからのリテイク要求
「こんなもんでどうかな。ちゃんと休息も賃金も与えたよ」
変更した冒頭部分を自信満々でロッポーちゃんに見せるキヨシ。
ロッポーちゃんは一通りそれを確認し、フルスイングでキヨシのコメカミを殴りつけた。
「ピヨった! レバガチャしないと追い討ちされて即死!」
手のひらで頭をおさえ、前後にカクカク揺らせるキヨシ。余裕が出てきたようだ。
「さて問題です。どうして殴られたでしょう」
「いや、わかんねえよ。言われたとおりにしたってば」
ロッポーちゃんは手に持っている棒を、キヨシの鼻先にビシッと突きつけた。
「馬は軽車両! 自転車と同じ! 夜間の走行はライトをつけなさい!」
「うっそ、馬って車両なんだ。知らなかったぜ。ああでも俺、チャリでも夜にライトつけてねえイデデデ!」
上から横から前から後ろから滅多打ちにされるキヨシ。
殴られながらもパソコンに向かい、馬の頭に携行ライトをくくりつける描写をすぐさま入れている。
このタフネスは何か、他の使い道がありそうなものだ。
「そっかー、馬はチャリ扱いなんだ。乗るときは気をつけよう。確かにライトがないと危ないよな、でかいし」
キヨシは感心しながらネットの検索エンジンを開いた。
確かに馬は道路交通法で軽車両扱いとなっており、酒気帯び、携帯電話を使いながらの運行、夜間無灯火などが禁じられている。
歩道ではなく車道の左側を走らなければいけないらしい。
さぞかし邪魔だろうとキヨシは無駄な心配をした。
「わかればいいのよ、わかれば。でも今日はこれ以上、細かいことは言わないわ。日本は祝日みたいだし。そうね、一昨日がメーデー、明後日は子供の日だから、労働者の権利や児童福祉に焦点をしぼりましょう。全部突っ込んでると、私の手も疲れちゃう」
その後もロッポーちゃんの添削は続いた。
作品の中で戦闘シーンがあれば、四時間ごとに両者とも休憩を挟んで戦った。
年の若いキャラクターを夜中に行動させると、ロッポーちゃんは容赦なくキヨシの体を殴りまくった。
いきおい、作品で行動するキャラクターの年齢層が高くなり、しかも彼らは定期的に休み、眠り、十分な食事をとるようになった。
「おっかしいなあ。近未来のロボットバトルもの、復讐と再会がテーマなのに、なんでお茶の間で雑談してるシーンが一番多いんだこれ」
「いいことじゃないの。平穏で秩序ある暮らしが一番よ。さて、私も少し疲れたわ。お茶にさせてもらうわね。冷蔵庫の中にゼリーが残っていたはずだし」
「あ、俺の分もお願い」
「知らないわよバカ。自分の分は自分で用意しなさい」
すでにキヨシは、ロッポーちゃんがいることに何の違和感も覚えていない。
もともとこの日は、執筆に集中するための日であった。
頭のチャンネルを一度合わせると、なかなか他のことに切り替えられないタイプなのだろう。
「法律、法律ねえ。確かに小説にリアリティを求めるなら、展開や行動に説得力を持たせる必要がある。法律というアプローチは盲点だったぜ」
ロッポーちゃんに指摘された「労働基準法」のまとめサイトなどをつらつら見ながら、キヨシは自分が書いた文章を見直している。
とうとう、戦闘シーンの中で兵士たちがストライキを起こし始め、日本を支配している皇帝が職業選択の自由を振りかざした。
国の統治を放棄してロックミュージシャンに転進するようだ。
ロッポーちゃんとキヨシの共同作業により出来上がった全体の概要は、以下のとおりである。
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