第33話 追いかけっこ
「まさか、ミライくんがショウさんを殺した犯人だったなんて……」
肩越しに振り返るとビオリちゃんは預けていた俺のジャケットをぎゅっと握りしめていた。俺は今しがたミライくんが入っていった手鏡を拾うと彼女に向き直った。
「俺は今からミライくんのことを探そうと思うけど……ビオリちゃんは?」
ビオリちゃんは少し考えた後に首を横に振った。
「ちょっと……あまり受け入れられなくて……今までミライくんが行っていないところで待っていてもいいですか?」
「うん、分かったよ」
彼が行ったことがある場所には手鏡が仕掛けられている可能性がある。ミライくんが行っていない場所は、彼と離れて行動をしていた俺には全部把握できないが、ビオリちゃんはミライくんとトイレ前で再会したから、彼と一番長い間一緒にいただろう。
彼が鏡を使って、移動をした時以外は、だが。
俺は下駄箱から校舎内に入ると周りを見回した。
「おじさん、どうして僕が犯人だって分かったの~?」
その声は扉近くにいくつか並んでいる傘立てから聞こえた。
声がした方に導かれるようにして近づくと、それは傘立ての上に立てかけられていた。ちょうど、鏡が向いている方向に、一階から二階にあがる階段があった。
「ミライくんが教えてくれたんだよ。自分の怪談のことを」
「うん、教えたね」
「その時に思ったんだ。君は怪談では常に鏡の中にいて、次に自分と入れ替わってくれる人を待っている。そんな君の怪談の力が鏡に関係しないわけがない」
俺が傘立てに立てかけられていた鏡を手に取ると、先ほどまで鏡から聞こえていたミライくんの声はもう聞こえずに、鏡に映るのは自分だけだった。
その足で、階段へと向かう。
ビオリちゃんは一緒に校舎に入ったものの、早々に安全な教室へと向かったようで、彼女の姿は下駄箱から消えていた。
目の前の中央階段の踊り場まで向かうと、二階への階段の目の前に大きな姿見があった。
そこに一瞬だけミライくんの姿が映る。
「もしかして、口にしていなかっただけで、君はこの学校の構造を知ってたんじゃないのかい?」
「うん、知ってたよ。だって、入院するまで通ってたもん」
だから、彼はあの場所に焼却炉があることを理解していた。単純なショウさんのことだから、すぐに引っかかって、焼却炉の中に入ってくれると思ったのだ。
「君はトイレに入った後、この階段の窓に移動した。俺はショウさんが階段に行ったことには気づいたけど、彼が、上に行ったのか、下に行ったのかは分からなかった。ビオリちゃんが上に行ったのを見ていたから、その時はてっきりショウさんも上に行ったと思ってたけど……」
「あの時は僕もびっくりしたよ! どこでも移動できるようにって、お姉ちゃんとおじさんに見つからないように階段の鏡から出た後、下駄箱に鏡を置いてから階段の鏡に戻ったら、お兄さんに追われてるんだもん」
「その時、ショウさんが階段下の姿見にいる君のことを発見してしまった」
廊下をまっすぐ走っている俺と階段の踊り場にいるミライくん。ショウさんが二人を目撃したら、どちらを追うかなんて決まりきっている。
すでに走り出している俺のことを追うよりも、俺よりも近くにいて、さらにはすぐに追いつくことができそうなミライくんのことを追うに決まってる。
「慌てて下駄箱の鏡に逃げたんだけど、思ったんだ。殺せるって。だから、僕は校舎の外に逃げることにしたの。扉を開けっぱなしにしてね」
ショウさんが一階に下りた時、下駄箱の扉が開いていたら、自分が追いかけている子供が外に逃げたと思うのは当然だろう。そして、外に出た時にその後ろ姿が見えたら、迷いなく追いかけるに決まっている。
いつの間にか、階段の踊り場にある鏡から声はしなくなった。きっとまたどこかに移動したのだろう。
この学校を歩き回ったところ、他の階段にも大きな姿見があった。その全てを回って、ミライくんのことを捕まえるのは無理だ。
俺は階段を上って、トイレの扉を開けた。洗面所が一つあり、そこに備え付けられている鏡は割れていた。
そして、洗面台には手鏡が立てかけてあった。
ミライくんの声はしない。きっとこの校内の他の鏡のところへと移動してしまったのだろう。
俺は洗面台に立てかけてあった手鏡を拾うと、トイレを出た。
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