第6話 小学校


 この小学校は三階建てだ。

 教室の扉の上についているパネルを見る限り、一階に一年生と二年生の教室、二階に三年生と四年生の教室、三階に五年生と六年生の教室がある。

 そして、一階の端には図工室、二階の端には理科室、三階の端には音楽室がある。それ以外に主要な部屋を挙げるとすれば、一階に職員室と校長室、二階に図書室、三階にコンピュータ室がある。


 俺達が最初コクリさんからゲームの概要を聞かされた部屋は一階の教室のどこかだった。

 ショウさんとジゲンさんが殺し合っているとしても、三階のコンピュータ室にまでその余波が来るとは考えにくい。


 俺とミライくんとビオリちゃんは、ビオリちゃんを先頭にして、道案内と通路に人影がないか確認をしてもらいつつ、ミライくんを真ん中に、そして、俺をしんがりにして、周囲に気を配りながら、コンピュータ室へと向かっていた。


「あ、鏡」


 階段の踊り場で、俺の前を歩くミライくんの足が止まった。彼は踊り場の大きな鏡をじっと見つめていた。俺も彼に倣って鏡を覗き込む。

 俺達は死人だが、一応、俺達の姿が鏡には映っている。


「へぇ……死んでても鏡には映るのか」


 緊迫した状態だが、そんな呑気な反応ができているのは、ミライくんとビオリちゃんが一緒にいてくれているおかげだろう。

 実際、俺一人で逃げ出して隠れていたら、コンピュータ室まで行って俺について調べるなど、思いつかなかっただろう。


「この鏡も、僕二人分の高さがあるね!」


 ミライくんは大きな鏡に興奮しているのか、嬉しそうに鏡に近づいて、鏡面に手の平で触れた。


「アナイさん、ミライくん。三階の廊下には誰もいないみたいです」


 先に踊り場から三階へとあがったビオリちゃんの報告を受けて、はしゃいでいたミライくんも「三階行こー」とさっさと階段を一段ずつ飛ばしてあがっていった。入院服を着ているのに、こんなにも元気に走り回られると、少しだけ調子が狂ってしまう。

 先ほど、理科室から出た時も「辛かったら抱えようか」とミライくんに声をかけると「つらくない!」と元気よく断られてしまったくらいだ。彼には俺の助けはいらないらしい。


「ミライくんは元気だね」

「うん、僕、元気!」


 しかし、ここまで元気なのももう死んでしまった今だからこそだろう。彼の今までの言葉から推測すると、彼はあまり学校に通えなかったらしい。それに彼が着ている入院服。

 彼は学校に来ることができないほど身体が弱く、長い間入院をしていたのだろう。そして、入院服を脱ぐことなく、死んでしまった。

 ビオリちゃんが死んだ場所が学校と言うなら、ミライくんが死んだ場所は病院だろう。二人とも服装を見ただけで死んだ時の立場がある程度分かりやすい。

 教室からいち早くいなくなったタヌキさんもスーツ姿だったから、社会人であることは明白だ。ショウさんも制服を着ていたから男子高生ということは明白。


 俺は自分の服に視線を下ろした。

 黒のズボンと白いシャツに黒のジャケット。仕事用の服と比べたらカジュアルな素材だったから、日常で着ていたものだろう。

 いったい、こんな平凡な見た目の俺はどんな死に方をして、どんな未練を残して、怪談話となったのだろうか。


 三階にあがると、左手にあった音楽室に背を向け、廊下を進む、しばらく歩いて、扉の上のパネルに「コンピュータ室」と書かれている部屋の扉を慎重に、音を立てないようにビオリちゃんが開けた。


「……誰もいないみたいです」


 息を潜めて、顔だけ隙間からコンピュータ室に入れたビオリちゃんはきょろきょろと室内を見回すと、こちらを振り返って、親指を立てた。

 彼女が確認している間、俺は廊下に誰かいないかと周囲を何度も首を回して確認していた。

 俺達はコンピュータ室内に逃げ込むように入り込んで、静かに扉を閉めた。

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