第6話

夏休みに入り、凪咲は夏を満喫していた。

「はぁー…あっつーい…」

文句を言いながらもコンビニから家へ帰ろうとしている最中にふと街の掲示板に目が行ってしまい、そこには近くの川沿いでの花火大会の事が書かれていた。

凪咲は「これだー!」と叫ぶとすぐにスマホでとある人へ連絡をした。

『もしもし?どうかしたかい?凪咲』

連絡したのは、律だった。

「あのさ!今度の土曜日の夜って暇?」

『土曜日かい?特に何も無いよ?』

「じゃあさ、一緒に花火大会に行かない?」

『花火大会か、いいね。一緒に行こうか』

律からOKの返事が貰えて凪咲は嬉しそうに笑うと、待ち合わせ場所と時間を決めて電話を切った。

急いで家に戻り、リビングに行くと母親が居て「お母さん!」と声をかけた。

「あら?なぎちゃんどうしたの?」

「花火大会行くから浴衣出して!」

そう言うと母親はきょとんとしていたがすぐににっこり笑うと「分かったわ~」とのほほんとした感じで返してくれて、浴衣を出してくれた。

紺色にピンクの花がたくさん入っている女性物の浴衣で凪咲は浴衣を持って自分に合わせた。

「んー、髪型とかどうしよう…やっぱり上げるべきだよね…悩むなー」

「なぎちゃん、もしかしてデート?」

そう聞かれて凪咲はすぐに否定をしたが、母親はニコニコ笑っているだけだった。


そうこうしている内に花火大会の日になり、凪咲は浴衣に身を包み待ち合わせ場所に向かった。

人が多く混雑していたが、律を見つけるのは早く近寄り声をかけた。

「お待たせ!律!!」

「こんばんは、凪咲。ふふ、浴衣姿も可愛いね」

そう言ってくる律も浴衣姿に扇子を持っていて、あまりのイケメンっぷりに凪咲はドキッと来てしまった。

「律も浴衣姿似合うね、かっこいいよ」

「ありがとう、凪咲に褒められると嬉しいよ」

「またまたー!」

お互いに褒め合ってから花火が上がるまでまだ時間があるという事で、2人は屋台を回ることにしたのであった。

「何か食べたいのある?」

「かき氷は欠かせないよねー、あとりんご飴とか」

「なるほど、じゃあかき氷から行こっか」

「あ、僕が払うからね!」

先に指摘をしたが律はニコニコ笑っているだけで何も答えず、何なら凪咲よりも先に歩き出して凪咲は怒りながら律に着いていきかき氷の屋台に向かったのであった。


「うぅ、奢られてしまった…」

結局、律に奢られてしまったのであった。

練乳いちごのかき氷を食べると凪咲はキーンと頭が痛くなり、それでもかき氷を食べ続けた。

「痛くなるけどこれが良いんだよねー!」

「凪咲、それだとドMさんみたいだよ」

「ちょっと!違うからね!?」

そんな風に騒いでいると「おーい、お前ら」と声をかけられて、2人同時に声のした方を見るとそこに居たのは私服姿の佐野先生だった。

「佐野先生だ!こんばんは!デート!?」

周りを見回して恋人らしき人を見ようとしたが「違う」と即答されてしまい凪咲はしゅんと落ち込んだ。

「俺は見回り、ここの花火大会ウチの高校近いからよく生徒が来るんだよ」

「あー、なるほど…」

「大変ですね、佐野先生も」

「だから今から俺が見回り頑張れる様にチョコバナナ買いに行くんだけどお前らも来る?」

チョコバナナという単語に反応し、凪咲が「行くー!」と即答をすると3人でチョコバナナの屋台に向かったのであった。

「佐野先生、ゴチになりまーす!」

佐野先生が2人の分まで買ってくれて凪咲がお礼を言ってチョコバナナを食べていると何か視線を感じ、視線の方を見ると律がジーッと見てきていた。

「な、何?どうしたの?律」

「いや…佐野先生ならちゃんと奢ってもらうんだなって思って…」

「そこ!?いやだって佐野先生は大人だし!!」

「僕だって1個上だよ?」

「たった1個じゃん!!」

そんな会話をしていると誰かに押されてしまい、凪咲は律の腕を掴んでしまった。

周りを見ると人混みが増えてきていて、チョコバナナを食べながら佐野先生が2人に向かって口を開いた。

「お前ら、はぐれないようにな?」

「大丈夫だって、僕らははぐれ…うわわわ!

!!!」

「言わんこっちゃねぇな!おい!!」


気づいた時には凪咲は人混みに流されて1人ぼっちになっていた。

急いで連絡をすると律から『そこから動かないで』と返ってきて、凪咲はチョコバナナを食べながら待つことに…。

すると「ねぇねぇ!」と声を掛けられて声のした方を見ると同年代の男達が居た。

(うわ、ナンパ?やだな…めんどくさい…)

「彼女1人?良かったら俺らと遊ばない?」

凪咲の事を女だと間違えている時点で他校生だと分かり、知らんぷりをしていると男の中の1人が腕を掴んできて凪咲はぷいっと顔を背けた。

「人を待ってるんで無理です!」

「え?それって彼氏?」

「友達ですけど…」

「ならその友達も入れて皆で…って痛た!!」

いきなり男が痛みだして凪咲が顔を向けると律が男の腕を捻っていた。

「僕がその友達だけど、一緒に遊ぶ?」

「いてぇ!くっそ、彼氏じゃねぇかよ!行こうぜ!」

男達が去ろうとする中、1人の男性だけがピタリと止まり「律!」と声を掛けてきた。

だが律は相手の方を見ずに凪咲の手を繋ぎその場から離れたのであった。


屋台スペースから離れて近くの公園に行くと、やっと律が止まってくれて凪咲は問いかけた。

「さっき、最後に声をかけてくれたのはお友達?」

「……いや、友達じゃないよ」

「そうなの?…それは聞いて大丈夫?」

凪咲が不安そうに見つめながら問いかけると律は顔を近づけて凪咲だけに聞こえるように答えた。

「あれは…僕の元カレだよ。僕の右耳にピアスをつけた人」

「え……」

その瞬間に空に花火が上がり、律は顔を離して花火を見始めた。

凪咲は問いかけたかったがそれ以上は聞けず、ただ手を繋いで花火をずっと見ているだけだった…。

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