第5話

一緒に遊んでから数日後。

凪咲と律は期末テストに向けて保健室で勉強をしていたが、凪咲はこの間見たピアスの事が気になっていた。

(何で、律先輩は右耳のピアス隠してるんだろう…素敵なのにな…)

「出せばいいのに…」

「え?」

律が目を見開いて問いかけてきて、凪咲もきょとんと目を見開き少し経ってから自分が口に出していた事に気づいた。

「いや、あの!その!律先輩、右耳にピアス付いてるのに何で出さないのかなーって思って!」

そう言うと律は顔を真っ青にして自分の右耳を手で押さえた。

まさかの表情と行動に凪咲は驚いていると相手は何も言わずに片付けて保健室から逃げ出す様に出ていってしまった。

凪咲は何も言えず、全てを見ていた佐野先生の方を向くと近寄り問いかけた。

「え、何で!?僕、触れちゃいけないところに触れた!?」

「ああ、ガッツリ触れたな」

「嘘っ!!何で!?」

凪咲が問いかけると佐野先生ははぁ…とため息を付いてから凪咲のスマホを指して「調べてみろよ」と言ってきた。

急いで凪咲は『右耳 ピアス』で検索をして調べるとまさかの事が書いてあった。


“海外では右耳にピアスが付いていると守られる人という意味になり、男性の場合は同性愛者を表したりする”


「うそ…もしかして律先輩って…」

「…あんまり俺の口から言っちゃいけないけどな…あいつは俺と同じ同性愛者だよ」

まさかの事実に凪咲は先程自分は触れちゃいけないところに触れた事を改めて実感し、佐野先生に泣きついた。

「どうしよう、僕…僕っ!!」

「…この世の中な、理解してくれない人もいるんだ。お前の格好も同性愛者も。俺はそういうのは気にしないが、七条みたいに気にする人もいる。だから隠しているんだよ」

「………」

凪咲はこの時分かってしまった。

律が何処か仲間っぽいと感じていた事が、この同性愛者を隠していたところに。

それなのにズカズカと入り込んで相手を傷つけて凪咲は涙を流した。

「僕…律先輩に謝らなきゃ…!」

「…まぁ、何かあったら聞いてやるよ」


凪咲は律が来るのを待ったが、その日から全く保健室には来てくれなくなってしまい会わなくなってしまっていた。

自分から教室に向かおうかと思ったが、自分のせいで律が目立ってしまうのは嫌だと考えて断念をした。

それなら連絡を…と思ったがいつも毎日保健室で顔を合わせていたから、連絡先の交換をしていなかった。


そうこうしている内に期末テスト期間に入り、夏休みが近づいてきていた。


「どうしよう!佐野先生!!このままだと夏休み入っちゃうし、教室行って律先輩目立たせたくないし、連絡先知らないし、詰んだよ!!」

「あー、やらかしたな…お前…」

落ち込む凪咲の頭をぽんぽんと優しく撫でてから、佐野先生は引き出しからある物を取り出した。

それは手紙セットだった。

「佐野先生、それは…?」

「見てわからねぇ?手紙」

「いや、見て分かるけど…何で?」

凪咲が問いかけると佐野先生はニヤリと含み笑いを浮かべてこう答えた。


「ちょっと古臭いけど誰にもバレずに呼び出せる方法があるだろ?」


-----


期末テストが終わったその日、凪咲は保健室で待っていた。

凪咲は手紙を書いて律の靴箱に入れたのであった。これなら入れるところを見られなければ誰にもバレずに律を呼び出せるという事だった。

ドキドキと鼓動を速めながら待っているとノック音が聞こえ、凪咲はすぐに扉の方を見た。

扉が開き入って来たのは律だった。

「律先輩…!」

ホッと安堵の表情を浮かべる凪咲に対して、律は何処か気まずそうな表情をしており、佐野先生は席から立ち上がるとポンっと律の肩を叩いた。

「ちゃんと話し合えよ」

それだけ言って佐野先生は出ていってしまい、2人っきりになってしまった。

「あ、えっと、きさら…「律先輩!ごめんなさい!!」

律が言う前に凪咲が頭を下げて謝罪をすると律は驚いてすぐに凪咲に顔を上げてと言ってきた。

「ごめんなさい、僕…無神経な事をしました…」

「いや、無神経というか…如月さんはピアスの意味知らなかっただろ?如月さんが謝る必要は無いよ…僕が敏感に反応してしまっただけだから…ごめんね」

「謝らないでください!僕、右耳のピアスの事何も知らずに綺麗なんて思って…先輩がそれで悩んでいたらどうしようとか思わなくて…ごめんなさい…」

勢い余って凪咲の瞳からポロポロと涙が出てきてしまい、そんな凪咲に律は近寄ると手を伸ばしてきたが凪咲の前でピタリと止まった。

「律先輩…?」

「…同性愛者の僕は気持ち悪くないかい?」

「気持ち悪くない!恋愛に性別は関係ないし、僕は先輩のこと好きだよ!」

そう言うといきなり力強く抱き締められてしまい、凪咲も律の背中に腕を回してお互いにずっと謝り続けていた。


「とりあえず仲直りしたか?」

「はい゛ぃ゛…」

たくさん泣いて声も顔もボロボロになってしまった凪咲を見て戻ってきた佐野先生はため息を着くと冷やしたタオルを渡してきた。

「すみません、佐野先生…」

「いいよ、こいつが元気じゃないとこっちも狂うしな」

「確かに、如月さんは元気な方が良いですね」

「あーーー!!!」

いきなり凪咲が叫び出し、律と佐野先生は体を跳ね上がらせて驚き「どうした!?」と慌てて佐野先生が問いかけた。

「律先輩!如月さん呼び禁止!仲良くなったんだから凪咲呼びしてよ!!」

まさかの事に佐野先生は「はぁ?」とくだらなさそうに呟いたが律はニッコリ笑うと凪咲の手を掴んで顔を近づけて口を開いた。

「じゃあ、僕のことも律って呼んでね?」

「えっ!?でも、先輩だし…」

「じゃあ凪咲呼びしない」

「ええっ!?もう、分かったよ、律!!」

そう呼ぶと律は嬉しそうに笑ったのであった。

この後ちゃんと連絡先も交換したのであった。

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