第7話
夏休みもお盆に入り、凪咲は満喫をしていたが何かが物足りなかった。
佐野先生におすすめされたカフェでパフェを食べながらうーんと唸って悩んでいると、向かいに座った律が首を傾げて問いかけてきた。
「どうしたんだい?そんなに悩んで…」
「なーんか、もうちょっと夏が欲しい」
「じゃあ、はい、あーん」
律がアイスを乗せたスプーンを差し出してきて凪咲はなんの迷いもなくパクリと食べて幸せそうに笑ったが、すぐに我に返り「いや、そうじゃない!」とツッコんだ。
「これで夏感じたらおかしいでしょ!」
「んー、じゃあ海に行くとか?」
律の提案に凪咲は目をキラキラ輝かせた。
「そうだよ!海行こう!海!!」
「おや、こんなんでいいのかい?しかし…海に行くにしても水着はどうするんだい?」
律の言う通り、凪咲は可愛い女の子の服を着ているが男性である。しかも地毛で髪が長くメイクも少ししているがほぼスッピンで女の子なので、それで男性の水着を着たら…
「痴女扱いされちゃうね」
「痴女じゃないもん!ちゃんと濡れてもいい上着着るから大丈夫だよ!」
「なら大丈夫そうだね」
ニッコリ笑う律に対して凪咲も釣られて笑顔を浮かべると2人は海に行く計画を立て始めた。
そして当日。
2人とも水着に着替えて、浜辺に出ると凪咲は嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねた。
「これだよ!これ!夏さいこー!!」
「楽しそうだね、凪咲」
「うん、めちゃくちゃ楽しい!早く海に行こう!」
「行きたいけどその前に…」
腕を掴まれて海の家で借りたパラソルの下に入れられるとレジャーシートの上に座らされて、律の顔が近づいてきた。
まさかの事にドキドキしていると目の前にとある物が出された。
それは…日焼け止めだった。
「え、僕、ちゃんと塗ってるよ?」
「水に触れるから水に強い用を塗っておかないと、せっかくの白い肌が台無しだよ?」
ニコニコ笑いながら言われた言葉に、確かに…と思うと、凪咲は相手から日焼け止めを受け取ろうとしたが、ヒョイと腕を上げられてしまった。
「…ちょっと?律ー?」
「ん?塗ってあげるよ、背中とか」
「別に上着着ているし…って、うひゃ!」
いつの間にか背中側に回られて服の下に手を入れられて背中を撫でられてしまった。
すぐに止めてもらおうと声を出そうとしたが、変な声が出そうで凪咲は口元を押さえて我慢しているしか無かった。
「はい、終わったよ」
手が離れた時には凪咲はぐったりしていて、律はきょとんと目を見開いて「大丈夫?」と何食わぬ顔で聞いてきた。
凪咲は涙目で相手を睨んだ。
「り、律の変態…っ!」
「ただ日焼け止めを塗っただけなのに?」
「っ~~~!もう行こっ!!」
立ち上がると相手を置いていく様に凪咲は海に向かって猛ダッシュした。
浮き輪で揺られながらのんびりしたり、めいっぱい泳いだりして遊び尽くした凪咲と律はご飯を食べようと海の家に入った。
「何にする?」
「焼きそば食べたい、あとポテトとか…」
「いいね、シェアする?」
「うん、しよしよ!あ、僕、トイレ行ってくる」
「じゃあ頼んでおくよ」
ニコニコ笑いながら手を振って見送る律に背を向けて凪咲はトイレに向かった。
その時、ふと横目でナンパを見てしまい凪咲の頭にある事が過ぎった。
(律って、同性愛者さんだけど…普通に顔綺麗だしイケメンさんなんだよなー…ナンパとか告白とかされないのかな…)
そんな事を考えながらトイレを済ませ、席に戻ろうとしたが凪咲は自分達の席を見て嫌な予感がした。
水着姿の女性2人が律と一緒に居たからだ。
困った表情をしている律を見て、凪咲はすぐに近寄ると律の隣に座って律の腕に抱き着いた。
「私の彼氏に何か用ですか?」
「…えー、ちょっと話してただけだけどー…それだけで怒るの?彼女さん嫉妬深ーい、重たくなーい?」
クスクスと馬鹿にしたように笑ってくる化粧が濃い女性2人にカチンと来た凪咲は言い返そうとしたが、その前に律が凪咲の腰に腕を回して自分の方に引き寄せた。
「僕の彼女嫉妬深いの、可愛いでしょ?」
「…っ…行こっ!」
女性2人は顔を真っ赤にして去っていき、消えたのを確認してから凪咲は向かいに座り直した。
「ごめん、嘘とはいえ彼氏扱いして!」
「いや、大丈夫だよ。助かったから寧ろありがとう」
「……ねぇ、気になったんだけど…いつもナンパとか告白ってどう躱しているの?」
そう問いかけると律は少し考えてから口を開いた。
「いや、普通に…用事があるんで、とか…今は恋愛に興味無いんでごめんなさい、とか…」
「さっきみたいにしつこいのは?」
「…学校外の人なら真顔で口悪くする、しつけぇんだよ、とか言っちゃうね」
まさかの答えに凪咲は色んな意味でドキドキしていると、料理が来て2人はシェアしながら食べだした。
食べ終わった後は砂浜でのんびりしたり、また海で遊んだりして充実した1日を過ごした。
服に着替えて凪咲と律は帰ろうとしていた。
「楽しかったー!もう満足!」
「夏を感じれたみたいで良かったね」
「えへへ、ありがと!律のおかげだよ!」
凪咲が相手に向かって笑顔でお礼を言ってからスマホを確認すると1件のメッセージがあり、開くと母親からだった。
「あれ?お母さんからメッセージが来てる…って、ええっ!?」
いきなり大声を上げてしまい、隣にいた律が驚いてからすぐに「どうしたの?」と問いかけてきて凪咲は顔を真っ青にしながら律の方を向いた。
「僕を置いておばあちゃん家に泊まりに行ったって……って事は今夜、家に僕1人なんだけど!どうしよう!」
「今からおばあちゃん家に向かうのは?」
「おばあちゃん家…片道1時間かかるし、駅から家までバスなんだけど…今から行ったんじゃバスが無くて徒歩で40分くらいかかっちゃう…」
凪咲はため息をついてどうしようか悩んでいると律が口を開いた。
「じゃあ、僕の家でお泊まり会でもする?」
「え、えーーー!!??」
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