第3話

「おっはよーございまーす!」

いつも通り教室には向かわずに保健室に朝から来た凪咲。

もちろん保健室もいつも通りだと思ったが、目の前にいた人物に目を見開き驚いてしまう。

まさかの律が居たのだ。

「如月さん、おはよう」

「律先輩が朝から居るなんて珍しい…僕みたいにサボりに来たの?」

「んな訳あるか」

佐野先生がビシッとツッコミを入れてきて、そんな2人を見てクスクス笑っていた律だったが、顔は真っ青で目の下に隈が出来ていた。

それに気づいた凪咲が目の下に手を伸ばした。

「大丈夫?律せんぱ…!」

言い終わる前に律が体を凪咲から離れるようにしてしまい、凪咲は目を見開き驚いてしまった。

すぐに律はニッコリといつもの笑顔を浮かべて謝ってきた。

「ごめん、ちょっと夢見が悪くて寝不足だったんだ…だからベッドで休むね」

そう言うと凪咲の返答を聞く前にカーテンで仕切られたベッドに向かってしまい、気になった凪咲は佐野先生に向かって問いかけた。

「夢見が悪いって、律先輩どんな夢見たのか知ってます?」

「……さぁな、知らねぇよ」

何かの雑誌を見ながら適当に答える佐野先生に凪咲は怒りを露わにすると相手から雑誌を奪った。

「ちょっと、ちゃんと聞いてよ!」

「あのよ、誰だって触れてほしくない物もあるだろ?お前の制服みたいに」

そう言われると何も返せなくなり、凪咲が顔を下に向けると雑誌のカフェ特集に目が入った。

色々と印が入っていて凪咲はニヤニヤしながら佐野先生に問いかけた。

「もしかして…彼女さんとデート?」

「え?ああ、まぁな…カフェ行きたいって言ってたから」

「佐野先生って彼女さんいるんだー!可愛い?」

そう問いかけると佐野先生は「うーん…」と少し唸ってから真剣な表情と声色で答えた。

「普段は可愛いけど…エッグタルトを食べるとめちゃくちゃ怖い」

「それ、絶対彼女さんのでしょ?佐野先生いけないんだー、何処であったの?」

「あー、高校の時に」

「へぇー、同い年?」

その時だった。

ピクリと佐野先生の眉が動いた事を凪咲は見逃さなかった。まさかのダメな質問だったかと思ったが黙って待っていると、佐野先生は口角を上げて笑いながら答えた。

「そう、同じ学年同じクラス、しかも出席番号も前後で俺は寮生だったんだけどそいつも寮生で同じ部屋だったんだ」

佐野先生の返答に凪咲はすぐに気付いてしまった。

出席番号が前後で同じ寮の部屋なんて、女の人なら有り得ないと。


佐野先生の恋人は男性だということに。


「っ、あの、ごめん…なさい…」

謝罪をすると佐野先生はきょとんと目を見開いて「何で?」と特に気にする様子もなく問いかけてきた。

「だって僕、入り込み過ぎたから…」

「あー、いいよ。別に俺は同性愛者なのはオープンにしているし今のも性別が違うだけでそれ以外は普通の恋バナだろ?恋人が女性ではなく男性なだけ」

しゅんと落ち込む凪咲に佐野先生は優しく頭を撫でてから、冷蔵庫からチョコを取りだして凪咲の口に無理矢理突っ込んだ。

「むぐっ!」

「恋愛相談とかたまにあるから、これぐらい気にすんなよ」

「…じゃあ、もっと先生の恋バナ聞いていい?」

「仕事に支障が出ないならな」

佐野先生の答えを聞いた凪咲はニッコリ笑ってお礼を言うと近くのパイプ椅子に座って恋バナをし続けた。


そうこうしている内に2時間目が終わりそうになっていて、佐野先生が凪咲に「ちょっと悪い」と声をかけた。

「?何ですか?」

「七条を起こしてくれないか?流石に2時間も寝たし大丈夫だろう」

「分かりましたー」

凪咲は椅子から立ち上がるとベッドを仕切るカーテンを少し開けて中の様子を確認した。

静かで寝息が聞こえなかったが、目を閉じて眠る律の顔が目に入ると凪咲はゆっくり近づいた。

普段、律は右側の横髪が長く左側の横髪か短いアシンメトリーな髪型をしており、右側に髪が寄っている感じで右耳が見えないのだが…ふと今見ると少し見えそうだった。

気になった凪咲は手を伸ばし髪を少しどかそうとした瞬間……。

「きゃっ!?」

いきなり腕を掴まれてしまい、目をパッチリ開けた律と目が合ってしまった。

「……如月さん、今いったい何を…?」

「え、あ、な、何でもないよ!起こそうとしただけで…」

そう言うと律は持っていた自分のスマホで時間の確認をし、終わるとニッコリ笑って凪咲から手を離した。

「いきなりごめんね、腕を掴んだりして」

「い、いや…!」

「起こしてくれてありがとう、また昼休みに来るね」

そう言うと律はベッドから下りて佐野先生に声を掛けてから保健室を出ていってしまった。

しかし凪咲は暫くその場から動けず、パタリと先程まで律が寝ていたベッドに突っ伏した。

(さっきのは誰?凄く怖かった…律先輩ってあんな顔もするんだ…)

「ちょっとイケメンだったな…」

「何やってんだ、変態」

ハッと我に変えると佐野先生がニヤニヤと意地悪そうな笑みを浮かべながら見てきていて、すぐに凪咲は顔を上げて否定しだした。

「べ、別に律先輩の温もりを欲しがった訳じゃないからね!」

「本当に?七条が寝ていたベッドにスリスリしていた様に見えたけど?」

「ちーがーうーもんっっっ!!!」

体を起こして布団を綺麗に直すと凪咲はソファーに座り、勉強をしだした。

だけど頭の中は律の事だらけで集中出来なかった。


(なんか…先輩って…僕と仲間な気がするんだけどな……)

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