第2話
あれから保健室を気に入った凪咲は朝来て教室には向かわずに保健室に向かった。
扉を開けるとチャラそうな養護教諭、
「お前、朝から保健室に来るなよ」
「だってー教室に行きたくないしー、大丈夫、ちゃんと授業道具は持ってきたよ」
そう言ってカバンから授業道具を見せると、佐野先生はため息をついてから冷蔵庫に向かい何かを取り出して凪咲に投げた。
凪咲はちゃんとキャッチすると、それがチョコだと分かりすぐに自分の口にパクっと入れた。
「少しでも騒いだら追い出すからな」
「はーい」
授業が始まると保健室内はシーンと静かになり、凪咲は勉強しやすかった。
授業と授業の合間に生徒が来る事はあったし、その度にジーッと見られている視線を感じて嫌になりそうだったが、佐野先生がすぐに追い払ってくれていた。
「佐野先生はさ、僕のこと聞かないの?」
「ん?女の子の格好している事とか?」
「うん」
「お前、自分の嫌なことを普通自分から聞くか?」
佐野先生の言葉に「確かに…」と思った凪咲だがそれよりも気になってしまった為に、答えを急かさせた。
しかし佐野先生はマイペースに考えていて、少し悩んでから口を開いた。
「別に良くない?男の子が可愛い格好しても、可愛いモン好きでも俺はその人の気持ちを尊重するかな」
その言葉に凪咲は嬉しそうに笑うとお礼を伝えて、また勉強をしだした。
ちょうど昼休みになり、凪咲は弁当を取り出そうとしていると扉のノック音が聞こえて入ってきたのは律だった。
「あ、律先輩ー」
「やぁ、こんにちは、如月さん。今日も保健室でサボりかい?」
「ちゃんと勉強はしてますぅー」
「授業受けてないからサボりだろ」
佐野先生がボソッと小さな声で呟いてきて、凪咲は怒りで体をフルフル震わせて、そんな2人を見て律は楽しそうに笑っているだけだった。
昼休みになるといつも律がやってきて、2人は保健室でご飯を食べるのが普通になっていた。
「律先輩のお弁当美味しそー、春巻きいいなー」
「如月さんの唐揚げと交換してくれるかい?」
「やった、いいよ!交換しよ、交換」
こうやっておかず交換をしながら弁当を食べ終わり、ゆっくりしているとまたコンコンと扉を叩く音が聞こえてきた。
2人は気にせずに話していると「あれ?」と聞いた事ある様な声が聞こえて凪咲は振り返った。
そこに居たのは同じクラスの女子数人だった。
「如月さんだ、学校来てたの?」
「え、体調悪いの?大丈夫?」
「全然教室来ないから心配してたんだよー」
友達みたいに馴れ馴れしく話しかけてくるが、凪咲とこの子達は友達ではない。
凪咲は無理やり笑顔を作って「大丈夫だよ!」と伝えた。
そこからは色々質問攻めをされたが凪咲はのらりくらりと適当に答えて躱していった。
「じゃあねー」と手を振りながら去っていくのを見送ってから凪咲はため息をつくと、律と目が合ってしまった。
「な、なに?」
「ううん、大丈夫かなって思っただけ」
律はそれだけ言うと空になった弁当を片付けだし、保健室から出ようとしたがピタリと止まると振り返って口を開けた。
「あまり抱え込み過ぎないようにね」
それだけ言って出ていき、凪咲は机に突っ伏してため息をついた。
午後の授業が始まり、凪咲は勉強をしながらチラリと佐野先生を見て問いかけた。
「ねぇねぇ、何で律先輩ってよく保健室に来るの?」
「は?」
「だって、僕みたいに教室に居たくないとか無さそうだし…授業サボったりしていないし」
そう話す凪咲に佐野先生は少し考えてから口を開いた。
「お前からはそう見えるんだな、あいつ」
「え?それってどういう事…「はい、勉強しろー。しないなら出ていけー」
聞く前に遮られてしまい、凪咲はモヤモヤしながら勉強をしてその日は1日保健室で過ごした。
放課後になり、帰ろうと保健室を出るとちょうど廊下の先に律を見かけて声を掛けようとしたが、凪咲はピタリと止まってしまう。
普通にクラスメイトと話していたからだ。
(……やっぱり、先輩は普通じゃん…)
背中を向けて去ろうとしたが、後ろから「如月さん」と声をかけられて振り返るとそこには律がいた。
「り、つ先輩…」
「帰るなら一緒に帰らない?」
「え、でも…」
先程の人達が気になったが姿は無く、律は自分の方に来てくれた事に少しだけ嬉しくなると凪咲は律の横に立った。
「へへ、可愛い僕と一緒に帰りましょうか」
「ふふ、嬉しいね、可愛い如月さんと一緒に帰れるなんて」
2人は他愛ない話をしながら一緒に帰ったのであった。
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