僕達の世界はちゃんとここにある

白群

第1話

可愛い物が好き。可愛い格好が好き。

リボンもスカートもニーハイも大好き。

でも自分はそれを身につけてはならないと言われている。


僕が男の子だからである。


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バッシャーン!!!

突然降ってきた水は見事に頭からクリーンヒットしてしまった女子生徒…ではなく、彼は立派な男子生徒である。

長くて綺麗な髪を背中まで伸ばし、パッチリした二重の目にぷっくりした唇、白く綺麗な肌、細い腕や脚は何処から見ても女子だった。

しかし彼、如月凪咲きさらぎなぎさは生まれた時から男の子なのである。

「ちょっ、誰!?こんな事したの!」

バッと上を見ると1人の男の先輩と目が合ったがすぐに謝って来てくれて、自分がたまたま下に居ただけというアンラッキーを起こしただけだった。


凪咲は特に相手を責める事はせずに、その場を離れたが…制服も髪も肌も全てビショビショでどうしようか悩み出した。

(僕、友達居ないから呼び出すとか無理だし…あんまり教室に行きたくないから困ったな…)

この格好のせいで教室内からは好奇の目で見られることが多かった。だから凪咲は教室には行かずにいつも学校内をフラフラしていた。

「…女の子だったら良かったのに…」

ボソッと呟いたが、状況は何も変わらないどうにかしようとした瞬間、ガラリと引き戸が開く音が聞こえた。

音のした方を見るとチャラそうな外見をしている白衣の男性が凪咲に向かって手招きをしていて、凪咲は周りを見回した。

しかし自分しか居ないことが分かると近づいた。

「お前、どうしたの?んなびしょ濡れで…」

「上から大量の雨が降ってきたんですぅー」

「今日、雲ひとつもない快晴なのにか?」

空を見ながらニヤニヤと笑いツッコミを入れてきた相手に一瞬ムッとした凪咲だったがポイッと何かを頭に掛けられて、驚いてしまった。

すぐに触れると、それはタオルで凪咲はきょとんと目を見開いた。

「それ使え、生徒に風邪引かれたら困るしな」

そう言う先生のいる場所を覗いてみると、そこは保健室って事が分かり、同時にこのチャラそうな先生が養護教諭だと分かった。

有難くタオルを使い、中に入るとポイポイと衣類を投げられて凪咲は綺麗に受け取った。

それは学校指定のジャージだった。

「制服乾かすから、それ着ろ。そっち使っていいから」

指された方を見るとカーテンで仕切る事が出来るベッドが置いてあり、凪咲は「分かりましたー」と緩く言いながら閉じているカーテンを開けて中に入った。

シャーっとカーテンを閉めると受け取ったジャージをベッドにポイッと置いて制服を脱ぎ始めた。


その時だった。


「んんっ…」

布団が動いて誰かが起き上がり、凪咲が気づいた時には綺麗系なイケメンと目が合ってしまった。

「え…っと……?」

「うそっ!やばっ!!」

すぐに自分の胸を片手で隠しながら凪咲は逃げようとするが、イケメンが「待って!」と手を伸ばして腕を掴んできた。

その時に足を滑らせてしまい、凪咲はイケメンを押し倒す形になってしまい気づいたら…


イケメンの手が凪咲の胸にあった。


「あ、え、ごめん…」

「うにゃぁぁあーーー!!!へんたぁぁぁあーーーいぃぃ!!!」

「どうした!?」

凪咲の悲鳴に養護教諭がカーテンを開けて様子を見に来てくれたが、半裸でイケメンをベッドに押し倒す凪咲を見て先生は固まり「お邪魔しましたー」とカーテンを閉じてしまった。

「待ってよ!先生!!ここに変態が!!」

「僕、寝ていただけなんだけどな…」

「あー、女が積極的なのもいいんじゃない?先生は応援しちゃう」

「応援しないで、誤解だってー!!!」


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何とか落ち着いた凪咲はジャージに着替えてソファーに座り、向かいに座る綺麗系なイケメンを睨んだ。

睨まれているのに気づいて、イケメンは困った表情をすると口を開いた。

「君の裸を見て触った事はごめん。でも最初にあのベッドを使っていたのは僕だというのは忘れないでくれるかい?」

そう言われると凪咲は何も言えなくなってしまい、小さな声でボソッと「すみませんでした…」と答えると相手はニッコリと笑った。

するとイケメンの目が凪咲の頭から爪先までをじっくり見だして、凪咲は嫌悪感を感じた。

好奇の目で見てくる目と一緒だったのだ。

「な、んですか…?あんまりジロジロ見られるの嫌なんですが」

「ああ、ごめん。君は男の子なんだね?」

その質問に凪咲は自分の体が強ばったことに気づいた。

毎回聞かされる質問。どうして男なのにそんな格好しているのか、男の格好はしないのか…次に続く言葉はどれだと頭を動かし続けた。

「凄く似合っているよ、可愛いね」

まさかの言葉に「へ?」と間抜けな声を上げてしまった凪咲。今までにないパターンだったのだ。

「…聞かないの?僕が男なのに女の子っぽくしてるの」

「聞かないよ?僕はそういうの気にしないから、君が好きな格好をしたらいいんじゃない?」

今まで出会わなかった相手に凪咲は興味を持つと相手に向かって問いかけた。

「先輩だよね?面白いね、気に入っちゃったよ、僕は如月凪咲。先輩は?」

「僕は七条律しちじょうりつ。気軽に律先輩って呼んでいいよ、如月さん」


こうして女の子になりたい男の子は1人の男子に出会い、ここから色々と人生が変わっていくのであった。


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