第2話 免罪符っていかさまじゃね?

 きっと喧嘩の要因はこの免罪符だろう。免罪符は確かカトリックが、罪が許される御札をして庶民に販売していたものだったはずだ。宗教改革でルターやカルバンがそれらを否定し、プロテスタントという宗派を作った・・・。

「そんなものはおかしい。」

親父は冷静に言った。もしかすると一般の人々にもルターのような人はいたのかもしれないな。親父がその一人だろう。

「でも、教皇が・・・。」

「聖書にそう書いてあったか?先生は聖書の教えを大切にすべきとおっしゃっている。」

・・・先生?よく考えるとルターはドイツ、カルバンはスイスだったはずだ。そもそも彼らが活躍したのは100年後のはずだ。じゃあ、親父が言う先生は誰だ?

「先生?」

俺が気になったことをそのままお袋が代弁した。

「そう、ヤン・フス先生だ。」

ヤン・フス。そういえば宗教改革について習った時に聞いた人だな。でも、その人はブレーメンの人。でも、ここはボヘミア・・・。もしかして、ブレーメンってボヘミアなのか?(注: ブレーメンはドイツ語でボヘミアはチェコ語の呼び方。)

「お前も1回先生の話を聞くべきだ。」

「わかったわ。」

「・・・、ヨゼフ。お前も来い。」

「・・・は?」

 俺は家族とベツレヘム礼拝堂(注:プラハにある質素な礼拝堂)に来ていた。ベツレヘム礼拝堂はつい最近できたチェコ語で説教をするための礼拝堂だ。

「カトリックは免罪符を売っている。免罪符を買えば罪が許されると許されるとカトリックは、ローマ教皇は言っている。しかし、そんなことは聖書にはどこにも書いていない。そもそも、キリスト教においていちばん大切なのは主、イエス・キリストの言葉だ。それはつまり、聖書の言葉だ。それに反しているカトリックは間違っている。」

「そうだそうだ!」

聞いていた人々は賛同の叫びをあげる。

「私が言っている言葉は真実だ。真実は勝つ!」

俺はいつのまにか、フスの考えにのめり込んでしまった。

「お、ヨゼフ。」

「オブ!」

「お前も先生の話を聞いてんだな?」

「ああ。今日始めて聞いたんだが、俺はフスの考えにハマったよ。」

「そうか。じゃあお前もフス派だな。」

「フス派?」

「先生の考えに賛同した人たちのことさ。」

そうして俺はフス派として生きていくことになった。


 私は城の廊下を駆けていた。

「・・・、どうした、タマーシュ?」

「はっ、ジキスムンド様。プラハでただいまフス派という反カトリック勢力が力をつけています。」

「あいつは何している?」

「ボヘミア王はフス派のキリスト教の信仰を支持しています。なんでも王妃がフス派なんだとか。」

「ふっ・・・、相変わらずの怠惰王だな。王妃も王妃だ。奴らはいずれ神聖ローマ帝国の驚異になるとわからんのか。」

「どうなさいますか?」

「手はあるのか?」

「まず、フスの話を聞いてきます。その話を教皇様に密告すればフスはプラハにはいれなくなるでしょう。」

「・・・、わかった。タマーシュ行って来い。」

「はは。」

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