第2話 異世界コピー機無双とギャル悪魔

 なんだよ、この迷惑客は。お会計済んだんだからもう帰ってくれよ……。


 そう思っていると、出入口の方から俺を呼ぶ声が聞こえてくる。


「店員殿、ちょっといいか」


 紳士という感じの渋い声だった。

 俺はすぐさま骸骨兵スケルトンに「ご利用ありがとうございました」と言うと、レジカウンターから出て紳士のもとへと向かった。


「どうされましたか?」

「これなんだがね」


 こちらにちらりと振り向いたのは山羊頭の大男だった。

 山羊頭の悪魔バフォメットだ。近くで見ると威圧感がすごい。

 そんな悪魔がコピー機を指差し、気難しげに鼻を鳴らしている。


「なぜか急に動かなくなったのだが?」

「あ、大丈夫です。たぶんインクか紙が切れただけだと思うんで、すぐ動くようになりますよ」

「それはよかった。今日中に魔術巻物スクロールをあと五〇〇本は作りたかったのでね」


 五〇〇本も魔術巻物スクロールを……魔術巻物スクロールっていったら、消費すれば誰でも魔法が使えるマジックアイテムだろうけど……それってちゃんと使えるの?

 俺は気になって疑問を投げかける。


「一応確認なんですけど、コピーした魔術巻物スクロールってちゃんと使えるんですか?」

「もちろん。この箱は魔術工房であり、ものすごい速さで量産できる優れものだ」

「なんか工場みたいに使われてる……」


 さすが神様が用意したコピー機だ。ただの印刷じゃない。アイテムを完全に模倣している。

 俺が感心している間も、くつくつと山羊頭の悪魔は笑っていた。


「紙だから耐久性に難はあるものの、これだけの魔術巻物スクロールを用意できれば、戦術の幅が広がり、そしてわたしの出世は間違いないだろうな」

「これが異世界コピー機無双か。しかも成り上がり臭もするぞ……」

「店員殿、早く使えるようにしてくれ」

「はい、確認します」


 山羊頭の悪魔に促されて、俺はコピー機の前でしゃがみ込む。

 紙が入っている引き出しみたいなところを引っ張ると、思った通り紙がなくなっていた。


「新しい紙、持ってきますね」

「よろしく頼む」


 山羊頭の悪魔からそう言われると、俺はレジ横のスタッフルームに入った。棚から用紙の束を取り出し、コピー機に向かう。


 その途中、イートインスペースに視線を向けると、金髪サイドテールのギャル風悪魔がテーブルにノートを広げてペンを走らせていた。

 なんかファミレスで宿題してるJKみたいだな……うちで買った商品を試してるだけだけど。

 そのちょっと気楽な光景から視線を少し動かすと、コピー機の前で山羊頭の悪魔バフォメットが仁王立ちしていた。


 普通に怖いんだが……頭が山羊の大男が圧かけてくるんじゃねーよ。


 俺が辟易しながら紙の補充を済ませると、山羊頭の悪魔は再び魔術巻物スクロールを量産し始めた。


「ありがとう。助かる」

「はい、ごゆっくりどうぞ」

「店長さーん、注文いいですかー?」


 イートインスペースから可愛らしい声が聞こえた。


 あのギャル悪魔か……面倒だな。


 俺はソファーの方に渋々歩み寄った。


「あの、うちそういうサービスしてないんですよ」

「他に客がいなんだからいいじゃないっすかー。この店の売り上げに貢献するアタシに特別サービス、した方がいいのになー。常連なのになー」

「普通にうぜぇ……」

「あっ、今ウザいって言った! この店長客のことウザいって!」

「ピーピーうるせぇな……頼むから静かにしてくれよ」

「じゃあフライドポテトとコーラお願いします」

「結局頼むのかよ……」


 黙って宿題とかやってるとJKみたいで可愛いのに、やたら俺に絡んでくるからウザい。

 この子、見た目は闘牛みたいな角と悪魔の尻尾が生えていても、服軍服っぽい赤白のワンピースっていう服装と合わさってコスプレみたいだが、やはり悪魔なのだろう。


「早く持ってきてくださいよ。アタシ、今これ書いてて忙しいから」


 図々しい。こっちの事情なんてお構いなく喋るこの態度はまさに悪魔級の迷惑客だろう。


「宿題もいいけど、レジに商品通すくらいしような?」

「宿題? なんのことっすか?」

「いや、お前が今書いてるヤツだよ」

「え、これは任務で……はっ!? そんなことより早く持ってきて! じゃないとこの店の評判が下がるっすよ!」

「くそっ……わかったよ」


 俺は渋々レジに戻る。

 ああいうギャルっぽい奴は発言力強いし、変な噂とか流されても困る。

 フライドポテトの準備をしながら元の生活を思う。


 あー……こんな異世界に来なかったら、ギャル悪魔に脅されたりしないで普通に大学生活をエンジョイしてたのにな……いや、これでも運が良かった方か。


 苦笑すると俺は、この世界に来ることになった切っ掛けを思い出したのだった。



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