275. 絶好の機会
「それは無茶であろう!? 今からすぐにファルシアンへ攻め入るなど!」
「何が無茶なのですかな、カティヌール王。むしろ今しかないのですぞ?」
信じてファルシアンへ送り込んだ神域の民は、何の成果も上げられずに1人だけが逃げ帰ってきた。持ち帰ってきた妖精由来の品もただのガラクタばかりで、何の魔力も抜き出せなかったのだ。御大層な民族名の割に無能ばかりの役立たずめ……。
しかし無駄ばかりではなく、最低限の情報は得ることができた。
神域の民が襲撃時に唯一互角に戦ったという1人の男は、聖王国に現れた"精霊剣士"だろう。噂ではその昔聖王国に光の玉を授けた精霊に関係する存在だと言う。
そして、強大な魔術を連射したという侍女は帝国が"妖魔の侍女"と呼んでいた女に違いない。我々エネルギアに痛手を負わせた女だ。
"精霊剣士"や"妖魔の侍女"は事前にこちらの情報網にかかっていた。さらに妖精とドラゴンが特異戦力として挙げられる。
しかし、それ以外にそのような特異戦力の情報はない。逆に言えば危険視すべきファルシアン側の戦力はそれだけと言えるだろう。
ドラゴンはまるで生物とは思えない動きだったと言う。つまり、奴らはドラゴンの死体を操っているのだ。死霊術という死体を操る邪法があると聞いたことがある。
死霊術には何らかの制限があるのだろう。何故ならファルシアン王都から離れた場所での襲撃ではドラゴンが現れなかったからだ。あれ程の巨体を何の制限もなしに操れるなど思えない。
よって、ファルシアンのドラゴンは奇襲に対応できないと見て間違いないだろう。
であれば、今すぐにカティヌールをファルシアンへ攻め込ませるべきだ。
"精霊剣士"の相手は1人残った神域の民にやらせれば良い。"妖魔の侍女"は無詠唱はできず接近戦に弱いと聞く。戦場に出てきたとしてもやりようはあるだろう。妖精をどうするかだが……、戦争は量だ。物量にモノを言わせて電撃戦で押し込めば負ける筈がない。
「カティヌール王、ドラゴンは奇襲に対応できませぬ。そしてファルシアンの騎士団や魔術師団のほとんどは、この時期に起こる河氾濫の災害復旧のため北へ行っております。それ故、南のカティヌール側は今やガラ空き。絶好の機会なのです」
「ぬぅ……」
「さらに奴らは神域の民を捕らえた。神域の民を神聖視する南方諸国を味方に付けることは容易いでしょうぞ。今しかありますまい。力を付けたファルシアンは領土を広げるため必ずカティヌールに攻め込みます。今を逃せばカティヌールはファルシアンに滅ぼされてしまうのですぞ!」
「しかし……」
ふん、渋い顔でうだうだと悩みおって。
不審がられぬよう洗脳は軽めに抑えていたが、もう少し強めるか?
「話は平行線ですな。ひとまず休憩にしましょう。私も魔術師の端くれ、心を穏やかにする良い魔術がありますぞ」
「う、うむ……。では頼もうかの」
まずはカティヌールをファルシアンへ奇襲させる。南方諸国もファルシアンへ敵対させることができればなお良し。
その間に我々エネルギアは、師の残した資料を元に再度強力な魔物を召喚するのだ。師程の技術はないが、幸いドラゴンの召喚元が神域であると分かった。さらに神域由来の品を神域の民から入手している。召喚術は召喚元に由来する品があれば成功率が跳ね上がるのだ。
ここに妖精の莫大な魔力が加われば、師が召喚したドラゴン以上の強力な魔物を召喚することも不可能ではない。
我々を貶めた罪は重い。
必ず滅んでもらうぞ、ファルシアン。
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