261. 苦戦
妖精様と王女殿下の護衛で東の国境へ向かった帰路、トロールの森が見えてきた辺りで遠目に何かが動いているのが見えた。複数の何かが近寄ってきている。
妖精様に強化された俺が辛うじて見える程度だ、他の者にはまだ見えていないだろう。
数は……6、いや8か? なんだアレは?
この辺りの魔物にしてはでかいが、トロールにしては小さ過ぎる。人か? 何かを担いだ人間が8人こちらに向けて走ってくる。速い……! あっというまに近付かれてしまった! 武器を担いでいる。どう見ても敵襲だ。
「敵襲! 数8! 南側!」
「なにっ!?」
すぐさま騎士達が臨戦態勢を取ろうとするが、隊列を組みなおすのは間に合わないだろう。俺は妖精剣を抜き石礫を撃ってみる。……当たらない。この石礫は飛ぶ鳥にも当てられるんだが、これじゃ時間稼ぎにもならん。
馬車の中には広範囲を薙ぎ払える大規模魔術を使える侍女が居るらしいが、もう間に合わないだろう。もっと早い段階で周辺ごと薙ぎ払えれば苦労せずに撃退できただろうに。
ここまで近寄られれば相手がどんな奴か見ることができた。毛むくじゃらの小さな中年男性の集団だ。その小さいオッサン共が自分達の背よりでかい大剣やら大槌を肩に担いで走ってきている。
それとは別に迫りくる2つの板。あれは大盾か? おそらくあの盾の裏にも同じように小さいオッサンが居るのだろう。
アレらの相手は騎士達には難しいかもしれない。これ以上近付けるとヤバいな。そう思い俺も相手に向けて走り出す。
先頭の相手をすれ違いざまに斬りつけそのまま次の相手へ向かう予定だったのだが、斬りつけた相手は器用に武器を肩に担いだままこちらの剣筋に合わせてきた。こちらの剣はそらされ、相手はそのまま流れるような動作で大剣を横薙ぎにしてくる。
既にすれ違っていたため背中側から大剣が迫ってくる形になった。相手は小さく横薙ぎの大剣の下にはほとんどスペースがない。戦闘中にあまりジャンプはしたくないが、飛び越える他ないだろう。
大剣をジャンプして避けた直後、まだ空中に居る間を狙って大槌が襲ってくる。2人目だ。石礫を放って大槌の勢いを削ぐが、相殺はできず槌で打ち付けられてしまった。その間に1人目が1撃目の横薙ぎをそのままもう1回転して俺を断ち切ろうとしてくる。が、それは地面に伏せることで辛うじて回避できた。
なんだこいつ等、強すぎるだろう。妖精様に強化された後、俺の攻撃を避ける奴も俺にダメージを入れられる奴も居なかったというのに、普通に負けそうだぞ?
俺が2人に手間取っている間に、他の6人は俺を通り過ぎて馬車の方へ行ってしまった。騎士達と小さいオッサン達の交戦が始まったのが見える。
こちらの戦力は騎士1班5名体制でそれが3班、プラス護衛隊長が1名の16名、それに魔術が使える侍女が2人だ。なかなか厳しい戦いになりそうだな。
地面に伏せていた俺を潰そうと上から大槌が迫る。それを転がって回避して、転がった勢いで立ち上がる。が、立ち上がるタイミングで大剣が迫る。立ち上がりきれないまま崩れた体勢でなんとか妖精剣で大剣を逸らした。
横目には騎士が小さいオッサンに真っ二つに斬られたのが見える。不味いな、非常に不味い。
と思ったのだが、真っ二つに斬られた騎士が光って次の瞬間には何事もなかったかのように立っていた。斬られた体は完治しており破損した鎧も修復されている。
妖精様のお力に違いない。これは凄いな。
驚いた相手の動きが鈍り、逆にこちらの士気は上がったのを感じる。さらに全員の体が光り力が漲ってくるのを感じた。これが妖精様の強化魔法か。俺は2人相手でも少し余裕のある戦いができるようになった。
しかしそれでも騎士達は苦戦している。一方的にボコられることはなくなったようだが、防戦一方にしか見えないぞ。
そうしているうちに、相手は交戦しながらも何か相談を始めたようだ。短い会話を繰り返している。一瞬で襲撃を完了させる予定だったのに思いがけず時間がかかってしまっているのだろう。これ程強いのだ。時間がかかるなど思いもしなかった筈。
しかし、相手の会話はムニムニとしか聞き取れない。異国の者か。聞いたことない言語だな。
戦いは膠着状態になった。
相手を撃退するだけの戦力はないが、やられても一瞬で回復するため負けもしない。俺が相手ならそろそろ撤退するんだが……。殺しても殺しても生き返ってくる敵など相手にしてられないだろう? 何故撤退しない。
そうしていると、相手は俺達に何かを伝えようとしてきた。交戦しながらも何かを叫んでる。聞き取れる範囲では「ドラゴン」やら「妖精」やら……。
ドラゴンは分からんが、こいつら妖精様の存在を知った上で襲ってきてるのか。これは、かなりの厄介事な気がするぞ。
さて、どうするか……。
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