260. 捕虜返還

 私の名前……だって……?

 鷲鼻が特徴的なお貴族様が私の名前を訊いてくる。だけど、私の名前って何だ?


 ってか、このお貴族様笑ってるけど視線がするどい。視線で人が殺せそう。

 鷲鼻だしこのお方がかの有名なハプスブルク家のお貴族様ですと言われたら普通に信じてしまえるね。でも、めちゃくちゃ体がゴツくて鳩胸で全体的に逆三角形体型で、名前は……、オーエン? オーフェン?

 よく聞き取れない。もう筋肉マッスルブルクさんで良いか。


 で、何だったっけ? ああ、私の名前か。それとここの新しい特産品を考えてだって?

 うーん、知らんがな。自分の名前もここの新しい特産品も。


 名前……、名前ね。1年も自分の名前を思い出せなかったんだから、どうせ今後も思い出せないでしょ。だから適当に新しく名前をつければ良いと思うんだ。でもどうせならかっこかわいい名前が良いよねって思うんだけど、すぐには思いつかない。

 なんか壮大な名前が良いよね。ここまでの道中でこの国の神話をちょっと教えてもらってたけど、神話に関連した何かが良いかも……。


 ま、今はいっか。

 とりあえず黙っとこ。黙っとけば相手が勝手に「知るべきではないのですね」とか納得してしつこくは訊いてこないのだ。これぞ貴族の対応。私も世渡り上手になったもんだよ、ホント。


 それで、話のもう1つは新しい特産品か。特産品と言うと食べ物系を想像するけど、例に出してたのが鳥の模型だったからな。たぶんお土産の小物みたいなのを求められてるんだと思う。


 うーん、でもこの地方の特徴とか歴史とかなんだかんだとか全然知らないんだけど、そんな私に考えさせて良いのかな。

 とりあえず今分かってることと言えば、娯楽がほぼないってことだ。それと観光産業が全くない。戦地だったから観光なんて考えがなかったのかも。


 ハッ!

 ってことは、ここの人たちはボードゲーム弱いかも。

 ふふふ。てなワケでボードゲームで勝負だ、筋肉マッスルブルクさん!


 ……負けました。コテンパンに。

 もう特産品とか知らない。自分で考えれば良いじゃんそんなことさー。



 そうしてなんやかんやと3日滞在した後、4日目の朝に護衛を20人くらい引き連れたイカツイ馬車がやってきた。んで、そのイカツイ馬車一行と合流して私たちはさらに東へ進む。


 ここから東ってもう国境付近だと思うんだけど、いったい何処まで行くんだろ。もしかして隣の国まで行くのかなとか思ってると、国境付近の砦を通り過ぎた辺りで一行は停止。そこには隣の国の騎士だろう人たちがいっぱい待っていた。


 隣の国の人がイカツイ馬車の中を確認するときチラッと私にも中が見えた。あー、あれ牢屋に捕まってたロープ男だ。つまりこれは捕虜返還なのか。よく分からないけどこれでホントの平和が訪れたってことなんじゃないかな。良かったねロープ男、自分の国に帰れて。


 隣の国の人たちがイカツイ馬車を連れて東の方へ去っていく。しばらくして私たちは反転して西へ引き返すことになった。


 そして数日後、イカツイ馬車の護衛だった20人くらいが別行動になった。

 どうも私たちは行きとは別ルートで帰るみたいだね。なんか南の方に進んでるっぽいし。別れたイカツ護衛は西へ行ったから、そのまま最短ルートでお城に帰るんじゃないかな。


 そしてさらに数日進み南の方に森がうっすら見えるくらいになったとき、事件が起こった。


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