257. 東へ東へ
私が妖精になってそろそろ1年くらいかな。東行きの馬車の中から外をぼんやり眺めつつ、この1年本当に色々あったなぁと改めて思う。
最初の町から2つめの町、私の待遇はほとんど前回と同じだった。その次の町もほぼ同じ。その次の次の町もほぼほぼ同じ。
どうやら1つ前の町での成功例を訊き出して、その待遇をほぼそのまま実行に移してるっぽいんだよね。妖精イヤーは地獄耳だから裏での仕込みも丸聞こえなのだ。
でも毎回同じじゃなくて良いんだよ? むしろ違ったことをして欲しい。だって飽きるし。だけどそれでも、満足感は減ってくんだけど不満も特には無いんだよね。だからとりあえず大人しくなすがままな毎日を送ってるのだ。
だって下手にルーチンワーク以外のことをすると事件の前触れか!?と疑われちゃうんだもんね。私がすること何でもかんでも何かの対策ってワケじゃないのに、すっかり私を信仰してしまってるんだから。まぁでも、扱いが良いのは気分が良い。ふふふ、存分に崇めたまえ。
それで、お貴族様の対応なんだけど、行く先々のお貴族様たちは持ってる妖精グッズをしきりに私に見せたがるんだよね。最初はどう反応すれば良いのか戸惑ったもんだけど、ファンが自分の推しグッズを必死にアピールしてきてると思えばアイドル気分で微笑ましくもなれるってもんよ。世は正に妖精ブーム。廃れたときの私の扱いが少し心配になるけどね。
そう言えば西の目フェチさんは鳥籠に小鳥を飼ってたけど、東側のお貴族様たちも小鳥を飼ってるお宅が多いんだ。そういう文化なのかと思ってたけど、どうも鳥籠で暮らしてた私をイメージして小鳥を飼ってるらしい。小鳥も一種の推しグッズってワケだね。
そんな平和な雰囲気も東へ行くにつれてだんだん変わってきた。まず建物が違う。なんか造りが全部イカツイって言うかゴツい。王都付近はフラットな平原が多かったけど、だんだんアップダウンがきつくなってきて要所に砦みたいな町がズドンとそびえてる感じ。
町の人の気性も荒いって言うのかな。自分のことは自分でする、みたいな考え方が王都より強い気がする。私のお世話は鳥籠メイドさんがやってくれるから別に関係ないんだけどね。
それから怪我人も多い。さすがは去年まで戦争をしてた国って感じ。とは言っても一般人の怪我人はあんまりいなくて、ほとんど兵士とかだ。たぶん戦場はもっともっと東の方だったんだろうなぁ。
んで、私は慰問でその怪我人を治しまわってるのだ。その度に私の人気はうなぎ登りってもんよ。
だけど、そんなことを続けてたらこの国の医療レベルが下がる気がするんだよねぇ。私が居なくても大丈夫なように何かした方が良い気がする。でも、医療専門書を作ろうにも私には医療知識なんてほぼ皆無だからなぁ。「怪我したら綺麗な水できちんと洗え」みたいな超低レベルな本になっちゃうのは目に見えてるよ。ってか、そもそも本を書けるほど文字を習得してないか。
うーん、私がいなくても育つ効果の高い薬草とかを自生させれば良いのかな。
いや、やめとこう。私が作ったモノは軒並み効果が高すぎるらしいんだよね。それでこれまで私が作ったアレコレが他国から狙われたりしてるらしい。
そんな状況で何でも治す薬草なんか生やしちゃったらそれこそ戦争勃発もんだよ。前に鳥籠メイドさんがあんまり不用意にモノを作るなって言ってたけど、こういうことだったんだなぁ。
戦争と言えばもう1つ思い出した。
去年の秋過ぎから部屋の入口とか狭い通路とかにやたら垂れ幕が掛けられてるんだけど、冬の寒さ対策だと思ってたらどうやら違うらしい。
春になって暖かくなってきても垂れ幕がそのままだったから、不思議に思って訊いてみたんだ。そしたら、垂れ幕は透明化の魔道具の対策なんだってさ。地面ギリギリまで垂らした幕を出入り口に付けておけば、人が通れば垂れ幕が揺れるから透明でも分かるんじゃないかってことらしい。色々考えるねぇ。
ってか、去年急に対策しだしたってことはそれまで透明化の魔道具は知られてなかったってことなのかな。そう言や、去年ナヨ冒険者が透明になって逃げだそうとしてたね。懐かしいな、ナヨ冒険者。盗人容疑で捕まってたけど元気してるかな。
ふと気付くと、馬車はかなりの上り坂を登っているらしい。窓の外の景色はほとんど山の中って感じになってきた。となりのサルディア帝国って国とは山で隔てられてるって言ってたから、いよいよ東の国境まで来たのかな。
ってことは、この旅もそろそろ終着点ってことかー。遠かったぁ。
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