252. 旅立ち
妖精の指示のもと俺は第2騎士団40名とその他人員を伴って西へ出発した。
どこへ行って何をすれば良いのか全く分からないままの出発だ。何が起こるのかも分からない。戦闘の可能性がないとも言えない。よって騎士40名という大所帯で出発することになった。俺や世話係の付き人なども含めると総勢50名近い。物資を運ぶ馬車も3台用意してきた。
それだけの人員を動かすにはそれなりの
とは言え何処まで行くのか分からんから、食料などはとりあえず西の辺境都までの分を用意した。
まずは西の辺境都まで進んでみて、何もなければ物資補充しさらに西へ進む予定だ。最終的な目的としてはエネルギア首都までを視野に入れている。
何故エネルギア首都までとしているかは、妖精が1度エネルギア首都まで行ったことがあるからだ。あの妖精がいかに馬鹿だったとしても、流石に何のヒントもなく全く脈略もない地へ向かわせるようなことはしないだろう。
もし目的地が脈略のない場所なら、今度会った際に髪がほつれるまで頭をグリグリしてやるからな。
周りに随伴する第2騎士団を見る。あまり知らない奴らばかりだ。個人的には親しい第1騎士団の方がやりやすいんだが、向かうのが西だから仕方ない。
東西で騎士団の担当が決まってる訳ではないのだが、第1騎士団は帝国対策のため長く東に詰めていたことで、自然と西は第2騎士団が担当することが多くなっていた。
そのため、今は西なら第2騎士団の方が土地勘があり現地との関係が良好なのだ。そういう理由で西行きの俺は第2騎士団、東行きの妖精には第1騎士団が随行することになった。
まぁ、代わりに妖精剣の使い手2人を引き抜いてきたがな。騎士団40名に俺を入れて妖精剣3本、戦闘になっても後れを取ることはまずないだろう。
俺の装備は、光の妖精剣に妖精盾という見栄え重視の儀礼的装備にしか見えない出で立ちだ。見た目だけならまさに絵本の中の勇者だろう。しかしその実用性は今までの実績から説明するまでもなく、伝説の武具と言っても過言ではない。
伝説の武具に身を包み騎士団と共に妖精が示した地へ向かう。それだけ聞くと妖精に導かれし勇者の物語そのものだな。後の世には俺も絵本の主人公となっているかもしれん。
さらに目が良いという冒険者が1人。
何をなせば良いか分からない行軍だ。何かを見落とすなんてことは許されない。そのため王都内で最も目が良いと言われていた冒険者を雇ったのだ。
最初その評判には半信半疑だったが、スタンピードではオークキング、ガルム期にはドラゴンにトドメを刺した弓の名手だと聞けば文句などない。
俺達を西へ向かわせた妖精自身は、今頃東へ向けて出発している筈だ。
昨年に妖精が行った先々が豊作となったことに対して、妖精が行っていない地域から不満が出ていた。自身の土地にも妖精を来させて豊作にしたいらしい。そのため妖精の国内各地への派遣は昨年の内に決定していた。
妖精の影響は何も豊作になっただけではない。西は羊を聖獣として羊関連の商品を売り出し、エネルギアからの被害額を超える程の儲けを出しているという。聖獣の肉を食うのかと疑問も出るが、そこは聖なる食物とかなんとかで問題ないらしい。現金な話だ。今年は王都でも羊肉や羊乳が流行るだろうと兄上が言っていた。
北は鳥の模型が莫大な売り上げを上げているらしい。
中でも国王陛下が乗ってドラゴンと戦った同型の模型は信じられない程売れているのだそうだ。裕福層の家のガキどもの間で鳥の模型に乗って遊ぶことが流行っているのだとか。もちろん、そのガキどもが模型で空を飛んでいる訳じゃぁない。床に置いた模型の上に乗って、空を飛んでドラゴンと戦う妄想をしているだけだ。
そう言えば、鳥の模型を王都での土産屋でも売り出そうと北の商業ギルドが王都商業ギルドに来ていたと報告を受けてたっけか。
妖精を各地へ派遣してその地を豊作にすると言っても、それだけなら春からすぐに出発させる必要はなかった。早めに出発させれば各地の不満も早く収まるという理由もあったが、それだけじゃない。春になってすぐに妖精を東へ出発させたのは、妖精を求めて集まってきた者達から妖精を遠ざけておくのが目的だ。
春のガルム期が明けてから王都には本当に多くの人間が集まってきている。国として動いている他国の使者だったり、国内外の貴族の使いだったり、貴族当主本人だったり、依頼を受けた冒険者だったり、ただ妖精を一目みたい個人だったり、己の欲望に忠実な犯罪まがいの者達まで……。
本当に様々な人間が集まってきているのだ。
本来なら俺も妖精に同行する予定だった。
しかし妖精が西へ行けと言うので西へ来ているが……、もともと俺の同行は婚姻を結ぼうとする者達から遠ざかることが目的だったのだ。別に行先は東である必要はなかった。
妖精の力を求める者は妖精本人を狙うばかりではない。その手段の1つが俺との婚姻だ。南のカティヌール王国をはじめ、妖精の力欲しさに俺との婚姻を求める声は多い。国内外の貴族から他国の王族まで、これまた本当に様々な奴らが群がってきている。
別に俺は政略結婚が嫌だという訳ではない。慎重に選ばないと妖精の力を悪用されかねないことが問題なのだ。そのあたり兄上は本当に良い相手を見つけたもんだと思う。
婚約話に関して最も押しが強い南のカティヌール王国は、婚姻相手として出してきた姫をファルシアン王城に滞在させている。しかしカティヌールには去年、ファルシアン王国がどん底の時期に見放されたからな。カティヌールに対する国民感情も最悪。何より
しかも滞在させている姫はもともと兄上の婚約者だったときている。兄上も
カティヌールの姫も国からの命で来ているに過ぎないかもしれない。国中から嫌われているのを承知で元婚約者の傍でその弟に婚姻を結ぶべく頑張っていると思うと、同情はするがな。
それに、カティヌールにはエネルギアの残党が逃げ延びたという情報もある。カティヌールに妖精の力が渡ればエネルギア残党が再び暗躍するかもしれない。俺の婚約相手にカティヌールの者が選ばれることはないだろうな。
カティヌールの姫は離れに追いやってはいるが、果たして大人しくしていてくれるかどうか。俺が帰る頃には国に帰っていてくれれば良いんだがなぁ。
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