251. "橋"

 春か夏かと言われるとまだギリ春かなって時期、私は東へ向けて出発した。

 私が乗る馬車を中央にまわりを騎士団の馬が取り囲んで進んでいる。ちょうど銀髪ちゃんに最初に出会ったときの布陣だね。それにプラスしてお酒マンが徒歩でついてきてる。

 勇者くんが西へ出発したのを見届けてから出発したから、間違ってもここに勇者くんが合流してくるなんてことはない。それだけは安心だ。


 出発したばかりだからまだ街に近くて、ここの道は石畳で舗装されている。雪もすっかり解けた石畳をそこそこの数の馬がカッポカッポ、馬車の車輪がガランガランと音を立てて進む。かわいそうなことにお酒マンだけが徒歩だけど、進む速さは早歩き程度なので徒歩でもついてこれないことはない。


 道の両脇はたぶん畑なんだろうけど、種まきをしたばかりなのかまだ何もなかったり、あっても小さな芽が出ている程度だ。延々と茶色い土が続いているから見ててもあんまり楽しくない。

 ところどころに農家の人っぽい人が立っててこっちに笑顔で手を振ってて、歓迎されてるのがわかる。私が通ったこの周辺の畑は豊作が約束されるってんだから、そりゃ歓迎するよね。そんな利益しかない不思議生物が来たら、私でも全力で歓迎するもん。



 馬車の中は私と鳥籠メイドさん、それから銀髪ちゃんに銀髪ちゃんのお世話係のニーシェさんがいる。ニーシェさんは1番最初に出会ったメイド第1号の人で、最近名前を覚えた。


 鳥籠メイドさんとニーシェさんと言えば、この2人はお城で戦闘侍女と呼ばれてるらしい。戦闘侍女って役職があるワケじゃなくて、メイドさんたちの中でこの2人だけが戦争中に戦闘に参加したんだって。戦えるメイドさんってワケだ。

 しかも鳥籠メイドさんは敵から"妖魔の侍女"と呼ばれるほど凄腕の魔法使いらしい。それを聞いて私は安心したね。だって鳥籠メイドさんは極太ビームを連射できるんだよ? 集中すればマップ兵器みたいな超威力も出せるんだ。それがメイドさん標準の戦闘力じゃなくて良かった。鳥籠メイドさんだけが特別だったんだね。超ビームを撃ちまくる恐ろしいメイド軍団は存在しなかったんだ。



 私は馬車内に浮いた鳥籠に入っている。以前に編み出した馬車の揺れを回避するテクだ。鳥籠を浮かせておけば中の私は揺れないってワケ。

 南へ行ったときのように馬車には鐘がついているから、私の脱走はまだ疑われてるっぽい。私が不用意に馬車外へ出ればまた鐘をけたたましく鳴らされるんだろう。大人しくしとかなきゃね。


 でもまぁ、退屈はしないから馬車の外へ出たくなることもない。言葉が分かるようになって話し相手がいるからね。でも賢い演技を続行中の私は喋らないけどね。

 今は鳥籠メイドさんから白虹について教えてもらってるところだ。この国の人たちはあの白虹を"橋"って呼んでるらしい。なるほど、アーチ状だし橋に見えないこともないか。

 でも南の国では"塔"と呼ばれてるんだって。鳥籠メイドさんは南の人々には"橋"が何故か"塔"に見えているって言ってたけど、私はそりゃまぁそうだろうなって思ったよ。

 白虹が土星みたいな惑星のだっていう私の推測が間違ってなければ、南の緯度が低い場所から白虹を見上げたら地面から伸びる1本の線みたいに見えるんだと思う。そうなりゃもう"橋"には見えないよね。"塔"に見えるって言われた方が納得できるって。


 んで、"橋"は最初と終わりまでの架け橋とか、産まれて死ぬまでの人生とか、なんかそういう考え方があるっぽい。太陽が朝"橋"の根本から出てきて、昼太陽は"橋"を通って移動し、"橋"の反対側の端に夜沈むってところから連想されてるっぽい?

 それから、その"橋"に太陽が隠れて暗くなる期間をガルム期って言うらしい。なんでガルム期って言うのか、名前の由来は誰も知らないとか。


 私がそんな講義を受けてる横で、銀髪ちゃんは私を熱心に拝んでる。銀髪ちゃんは聖女さんが来てから聖女さんと一緒に2人で私を拝むようになったんだけど、まだその習慣は続いてるんだよね……。拝んでも何も出ないよ?



 そう言えば、外を歩いてるお酒マンだけど、出発前に妖精剣の魔力について相談されてしまった。妖精剣なんて代物聞いたこともなかったからいつものように無口スルーしようと思ったんだけど、妖精剣はなんと私が作った剣のことだった。宝物庫にあった赤の宝剣をもとに青、緑、黄、茶の5色セットで揃えたあの剣だ。

 赤以外は宝物庫になくてどこに行ったのかなーって思ってたんだよね。黄色は勇者くんがいつも持ってたのを知ってたけど、まさか茶色をお酒マンが持ってたとは。


 で、なんでもその妖精剣は常時魔力が漏れ出てて扱いに困ってたらしい。剣から漏れ出てる魔力が大きすぎて魔物に間違えられたって言われたときは爆笑しそうになったよ。私は威厳に満ち溢れた賢い妖精様だからなんとか笑わずに堪えたけどね。


 そんなワケで、私が作った剣のことだからスルーなんてできなかった。だから追加で鞘を改造してあげたんだ。鞘に入れてる間は魔力遮断できるって感じに。

 でもこの剣は5本セットのシリーズなワケよ。1本だけ鞘を作って他のに鞘がないってのはなんだかムズかゆく感じる。だから5本とも探し出して全部に鞘を作ったんだ。黄色を持ってる勇者くんが出発前で良かったねホントに。


 そんでまぁ、気づいたんだ。私が作るモノはだいたい魔力が大き過ぎるんだって。次に何か装飾品でも作るとしたら、そのときは魔力が出ないモノを作った方が良いのかも。魔力のあるモノを持ってたから魔物と間違えて討伐されてしまいました、なんて悲しい事故が起きるかもしれないもんね。


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