239. 仲良し

 私の類まれなる名推理でとりあえずオッサンが冤罪だってことはわかった。けど、このままオッサンを牢屋から連れだしたらさすがに問題になるよね。だって推理は推測であって証明はされていないし確定はしていないんだから。


 うーん、どうしよう。

 1発で冤罪を晴らす最善手は真犯人を見つけることなんだけど、さすがにそう都合よくその辺に真犯人が転がってるワケないもんね。かと言って時間もないのに今から実証を集めるなんてできないよ。私はあくまでみんなの付き添いで来ただけなんだから。1人じゃどうにもできないときは、やっぱ他の人を頼るしかないか。



 なので、みんなの助けを求めてドラゴンのところまで戻ってきたんだけど、みんながいない。え、私を置いていったい何処行ったの?


 んーと……、むむ?

 なんか変わった魔力を感じるよ。この魔力は……、さっきのパチ玉の魔力と似てる? なんかこう、神聖な感じって言うの? 神秘の秘宝? そういう魔力。


 あ、あれは聖女妹カッコ仮さんだ。なんかコソコソしててめっちゃ怪しい。それにあの抱えてる袋、あの袋から神聖な魔力をかすかに感じるよ。

 ピピーッ! 怪しい、怪しいねキミ! 職質です! 持ち物検査だよ! どこから来たの? その荷物はなに? ほら、見せてごらんなさい。え、見せられない? ちょっと署まで同行願おうか。


 なんか喚いてるけど、別に見せてくれなくても勝手に見るけどね。だって私はモノを透視できるんだし。あ、袋の中身は透明な割れた玉の破片だ。はいアウトー! クロです! 容疑者確保、確保ーッ!

 教会の奥にあった本物の玉を割ったのは聖女さんの妹だったんだ! やっぱりオッサンは冤罪だった!



 さて、私の見事な手腕で真犯人を捕まえちゃったんだけど、この後どうしよっかな。割れた玉っていう物的証拠もそろったし、みんなのところへ行けばあのオッサンも釈放してもらえるかも。


 とか思っていたら、不思議なことが起こった!

 宮殿の方からバリアみたいな魔力がすごい勢いでぶわーって広がってくる! そして聖女妹カッコ容疑者がそのバリアに弾かれてすごい勢いですっとんでいった!


 わー、なんだなんだ!?

 あー、このバリアは特定の条件を満たした人じゃないと中に入れないとかそういう結界系か。んで、聖女妹カッコ容疑者はその条件を満たしてないからバリアに弾かれたんだ。ってか、そんなこと考える前に追いかけないと!


 マップを出してすっ飛んでいった聖女妹カッコ容疑者の位置を確認する。あ、ダメだこれ。宮殿を中心に放射状にすっ飛ばされてる人が何人もいる! どれが聖女妹カッコ容疑者なのか区別がつかないよ!

 えーと、とりあえずあっちの方へ飛んでったよね。よし、あっちの方向へ急げ!



 その後必死に探してようやく見つけたときには、聖女妹カッコ容疑者は瀕死の重体だった。やばいやばい、とりあえず回復回復。……ふぅ、あぶないあぶない。


 バリアの広がりは一定の範囲で止まってたんだけど、聖女妹カッコ容疑者はバリアからだいぶ離れたところに落っこちていた。たぶん、バリアの広がりが止まった後も慣性の法則ですっ飛んでったんだろね。物理法則こわ。


 ってかこれ、他にもあのバリアに弾かれた人が何人もいたけど、ヤバいんじゃないのかな。下手しなくても死んでる可能性高いよね……。すっ飛ばされてもアウトだし、バリアと建物の間にはさまれたりなんかした場合には、ちょっと考えたくもない状況になっちゃうよ。

 でも私のせいじゃないし、治癒能力があるからと言っても私にだって救える命と救えない命がある。深く考えないでおこっと……。



 聖女妹カッコ容疑者と割れた玉を回収して急いで宮殿に戻る。んで、牢屋のオッサンも回収。ふぅ、あとはみんなに合流すればよろしくやってくれるでしょ。


 みんなの位置はー、なんかマップ上で点がいっぱい集まってる場所があるな。赤点が多いけど青点も数点かたまってる。ここかな? とりあえず行ってみて違ったらまた考えるか。


 お、みんな発見!

 ……って、なんだこの状況?


 みんなが騎士に襲われてる? でもバリアの中に籠ってるからどっちも手詰まりみたいな感じ? なんで襲われてるの? いやまぁ、到着した時点ですでに険悪な雰囲気だったけどさぁ。


 それから連れてきたロープ男のロープをこの国の人が一生懸命切ろうとしてるけど、切れなくて途方に暮れてるっぽい。あのロープはほどけないように私がちょっと強めに作ったから、そうそう簡単には切れないだろうね。


 ってかどうしよ。とてもじゃないけど冤罪のオッサンを見つけたから釈放してあげてと頼める状況じゃなさそうだ。すごい気まずい……。そんなことより、とりあえずこの喧嘩を止めないと。


「仲良し! 仲良し!」


 私の語彙が残念過ぎる。こんなことならもっと言葉の勉強を頑張っておけば良かった。でも意図は伝わるでしょ、きっと。


 喧嘩はダメよ、みんな仲良くね!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る