227. 飛翔
「――ずっと監禁、平和!」
妖精様の発言に場がざわつきます。
ああ、妖精様。本当に「監禁」とおっしゃりたかったのですか?
妖精様は「ルァ」の発音が大変お苦手であらせられました。もしかして、本当は「ずっと仲良し、平和」とおっしゃりたかったのではないでしょうか。この事に皆様はお気付きになられてはおられないでしょう。「監禁」と「仲良し」は「ラ」と「ルァ」の違いがあるだけで発音が非常に似ているのです。
どうしましょう。ご指摘差し上げた方が宜しいのでしょうか。
しかし、この場は会議ではなく食事の場とは言え、王族を交えての王国と聖王国の行く末を左右する話し合いの最中です。一介の侍女である
食事会の終了後すぐさま、主要な方々は会議へと移行されてしまいます。
恐らく妖精様が発言された聖女監禁を前提として、今後の方針が話し合われますのでしょう。勘違いの上に成り立つ検討に果たして意義はございますでしょうか。
それだけではありません。妖精様の意思が正確に伝わっていない疑惑だけではなく、そもそも妖精様ご自身が皆様の会話内容をほとんどご理解されていない疑惑もあります。妖精様の言葉のお勉強はそれ程進んでおりませんのですから。
会議中、妖精様のお部屋で待機している
会議が終了しましたのは夕刻になってからでした。国のトップの方々が長時間話し合われご決定されました事柄に対しまして、決定後に一介の侍女がそれを否定する発言をするなど恐れ多くあります。
心配して妖精様のお戻りをお待ちしておりましたが、妖精様がお部屋にお戻りになられることはございませんでした。それだけでなく、王城内がなにやら騒がしくなってまいります。この騒動、間違いなく妖精様がお関わりになられていることでしょう。
ああ、妖精様。今度はどのような行動に出られるのですか。そう思い騒動が起きていると思われる方へ急ぎました。そして目にしたのは……。
ドラゴンが歩いております。
ホールに飾られておりましたドラゴンの剥製が、まるで生きているかのように壁に向かって歩き出しておりました。そして妖精様は、そのドラゴンの付近を飛んでおられます。これは会議で決定された行動なのでしょうか。
ドラゴンが壁にぶつかる。誰もがそう思いましたが、なんとドラゴンは王城ホールの壁をすり抜けていきます。ホールの外にも人が居たのでしょう。そちらから驚く声が聞こえてきました。
王妃殿下をはじめとする王族の皆様、エフィリス様に聖王国の先々代聖女であらせられるお方もこの騒動を聞きつけ続々と集まられてこられました。皆様が見守る中ドラゴンは悠然と歩み進みまして、ついには王城の外、王城前の広場までたどり着きます。
夕日に佇む真っ赤なドラゴン。口には光の玉が咥えられております。もしかして、このドラゴンで光の玉を聖王国に届けるという事なのでしょうか。ちらりと王族の皆様を確認してみますと、王妃殿下以外は皆一様に驚愕の表情です。やはり妖精様の行動は会議でのご決定内容とは異なるのでしょう。話し合われましたとおりの行動なのでありますれば、これ程までに驚かれない筈なのですから。
いつの間にか居られなくなっておられた妖精様が地面の下から出てこられます。それに続きまして、地面の下からなんと牢に拘束されていた筈の帝国第2皇子も浮いてきました。縄で拘束された帝国第2皇子はそのままドラゴンに乗せられます。
「きゃっ!?」
「わ!」
「殿下!?」
そして、王太子殿下、エフィリス様に先々代聖女様が次々と空に浮かばれドラゴンに乗せられていきます。それを見られましたティレス王女殿下がドラゴンに向かって走りだされますと、ティレス王女殿下も途中で空を浮かびドラゴンに乗せられました。
ああ、妖精様。まさかとは思いますが、このまま聖王国に行かれるなんてことは……。こうしてはおられません。
そして次の瞬間、ドラゴンは高速で翔び立ったのです。
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