228. 理解

 セイントお母さんの金玉発言の後、勇者くんが私に何かを訊いてきた。しまったな、金玉発言が衝撃的すぎて何を言われたのかちょっと聞き取れなかったよ。


 聞こえてないフリでスルーしようかと思ったけど、勇者くんは真剣な表情でずっとこっちを見てくる。ってか、まわりのみんなも私を見てるね。これはスルーできないな……。しょうがなく私は頷いた。


「ふーん。じゃぁさ、その女はどうしたら良い?」


 え? 誰か女の人の処遇を決める的な話?

 この場合、話の流れ的に「その女」はセイントお母さんのことだよね、間違いない。


 もしかしてさっきの問いは「王族の前でいきなりの下ネタをぶっこんだその女はさすがに不敬だよね?」って同意を求めてた?

 ヤバいヤバいヤバい、頷いちゃったよ私。セイントお母さんの味方をするつもりだったのにおもいっきり敵にまわっちゃった!


 どうりでセイントお母さんも驚愕の表情を浮かべてるハズだ。だって数少ない味方だと思ってた私がいきなり裏切ったんだから。次の私の発言にセイントお母さんの未来がかかってる。えーとえーと、ここは穏便に……。


「――ずっと仲良し、平和」


 どうよ? 私の今の語彙力で最大限平和的に進むだろうナイスな言葉選び。でも周りのみんなはざわざわしだしている。どうなった、判決は? セーフ?アウト? 有罪?無罪?



 昼食会が終わった後、みんな会議室へ移動して話の続きをするっぽい。玉も一緒に会議室に運び込まれる。

 ぶっちゃけ私には関係ない話だし私は会議に参加しなくても良いんだけど、王族圧迫面接で四面楚歌な聖女さんとセイントお母さんがかわいそうだから私も参加することにした。

 だって、結婚相手の親御さんのところに挨拶にきたら圧迫面接が始まって、やっと終わったと思ったら別室で続行とか私だったら耐えられないもんね。



 会議の話をしばらく聞いてて思う。

 セイントお母さんは王族圧力に耐えかねてストレスマッハで精神おかしくなって下ネタに走ったのかと思ってたけど、どうも違うっぽい。だってみんな金玉金玉と金玉を連呼してるんだもん。

 勇者くんが金玉と言うのはまだ納得できるんだけど、さすがにドアップ様とか聖女さんまで金玉と言い出したら間違ってるのは私の方だって思いなおすよ。


 むぅ、金色の玉が金玉を指すって考えは日本語の常識に引きずられ過ぎてるのかもしれない。たぶん本物の金玉だって金色じゃないんだろうし。知らないけど。


 と言っても、会議室の中央に鎮座する目の前の玉も金色じゃない。なんか光ってるけど、どう見たって透明だ。ってことは「金色の」って単語は単純に金色って意味だけじゃないのかも。


 うーん……、金色……、キレイ……、ピカピカ……。ピカピカ?

 あー、もしかして「光ってる」とかそういう意味もあるのかな? だってこの玉光ってるもんね。光ってる玉……、光の玉か。なるほどなるほど。

 良かった、王族への不敬罪で処罰されそうな下ネタ大好き聖職者のお母さんなんていなかったんだ。



 じゃぁもうこの会議に私がいる必要はないよね、って思ったんだけど、どうも私に何かをお願いしたいらしい。頼られてる! 私頼られてるよ! 頼られてるって私!


 よくわかんないけど、どうも聖女さんの国に行きたいらしい。セイントお母さんがこっちの国に挨拶に来てくれたから、逆に向こうにも挨拶に行きたいのかな。


 しかも複数人で行きたいらしい。転移の魔道具は3つしかないから、転移で行くなら3人しか行けない。でもそれ以上の人数で行きたいから、私に複数人を聖女さんの国まで運べないかと訊いてきてるのか。


 それで、一緒に光の玉も聖女さんの国に運びたいらしい。セイントお母さんが光の玉をめちゃくちゃ気に入ってしまったからプレゼントってことかな。それ、私のなんだけど。まぁ、もう使わないから別に良いけどね。どうせまたすぐ作れるし。



 うーん、複数人の移動かぁ。私が浮かせる最大重量は、たぶん人2人までなんだよねぇ。前に事務員しょうさんと弓兄さんの2人を浮かせたのが精一杯だったもん。

 しかも聖女さんの国って、たぶんお酒マンがこの前転移した先だよね。魔力の残滓みたいなので転移先もわかってるけど、めちゃくちゃ遠いよ?


 だいたいそんな大人数で行くなら何か乗り物がないと無理だって。しかも雪積もってるから速く行きたいなら空を飛べた方が良い。空を飛ぶ乗り物って言ったらフラッシュ様が乗ってた鳥の模型チェケラ号だけど、あれに複数人乗るなんて無茶すぎるよね。


 乗り物……、乗り物……、光の玉……、ドラゴン……。

 そう言や、聖女さんがドラゴンに乗りたいとか言ってたっけ。いけるか? 私人形は動かせたし浮かせることもできた。要はそれの大きい版だ。動力源の石を大量に詰め込めば行ける気がする。



 私が頷くとまた話し合いが始まった。どうも誰が行くかを決めてるらしい。まず聖女さんとセイントお母さんは決定。で、金髪兄さんと勇者くんのどっちが付き添うかでもめてるっぽい。


 いや、そこは金髪兄さんでしょ。だって聖女さんの結婚相手は金髪兄さんなんでしょ? なんで勇者くんが行きたがってんの。2人とも行けば良いみたいなことも言ってたけど、それはドアップ様が却下してた。


 ちゃんと把握できてないけど、跡取りが2人とも行くのはダメとか勇者くんは言葉遣いがダメとかそんな理由で勇者くんはお留守番が決定した。

 勇者くん、王族にしては言葉遣い汚かったんだ。薄々そんな気はしてたよ。そのうち私の方がキレイな言葉遣いになるかもね!


 んで、後は牢屋にいる人も連れていくっぽい。そう言えば一時期大量に牢屋に入れられてた人たちっていつの間にかいなくなってたけど、まだ1人残ってたのか。なんでそんな人連れていくんだろ。ま、いっか。私にはわからない複雑な事情が色々あるんでしょ、きっと。


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