218. 謎のまま
「うっひゃぁ、また来たぁ!?」
またギルドに妖精様が来ちゃったよぉ!
ついこの前に起きた妖精様案件は、なんとか王城に押し付けることができたと思ってたのに! 今度は何って言うの? またお酒マン? それとも魔女? とりあえず援軍を呼んでこないと……。
「先輩先輩せんぱ~い!」
冒険者ギルドのサブマス部屋を飛び出し階段を駆け下りる。
「先輩ではありません。どうぞサラとお呼びください、サブマスター殿」
「妖精様がまた来られたんですよ! と言うか今も一定距離をたもってずっと見られてるんですよぉ! とりあえず上へ! 上へどうぞ! ささ、遠慮なくどうぞどうぞ! 話はそれからです!」
先輩を引っ張って階段を上がり、無理やり会議室に押し込める。
「そんなに服を引っ張らないでください。伸びるじゃないですか。手を放しても逃げませんよ……。それで? 妖精様がどうされたのです?」
「どうもされてませんけど、ずっと見られてるんですよぉ! また何かあるんでしょうか、また王城に行った方が良いんでしょうか、どうしましょうか、どうしたら良いんでしょうか、王城行きたくないんですけど! 王城はホント行きたくないんですけど!」
「落ち着きなさい。それ程王城が嫌なら書状を送れば良いではないですか」
先輩がジト目で見つめてくる。書状、その手があったか。
「さすが先輩、天才ですね! 書状で押し付け作戦ですね!?」
「アナタね……、防音された会議室内とは言え、大声で王城に押し付けるとか言わないでよ。と言うよりも、一般的には書状での報告が当たり前なのです。アナタのように事前連絡もなしにフラッと王城へ上がって、そのまま大して待たされもせず王族総出で対応されるなんてこと、どう考えても普通ではないのですよ。改めて言うと、本当にアナタ凄い扱いされてるわね」
「望んで王族なんて呼び出しませんよぉ。行ったら勝手に王族が出てくるんです!」
「これで新人だなんてアナタ、恐ろしい子」
「ふふ、先輩もようやく私の凄さに気づいてきましたかぁ? って、そんなことより書状ですよね。ちょっと書きますので届けてきてくれます?」
先輩が私の凄さを感じてる間にすかさず上目使いでお使いをお願いしてみる。
「嫌です」
即答だよ。ためらいもないし。
「……ちょっと書きますので、誰かに届けさせてきてくれます?」
「承知しました」
それは承知するんだ。
翌日、結局私は王城に呼び出された。書状なんて意味なかったんだよ、もぉ!
ちなみに先輩も一緒に連れてこようと思ったんだけどキッパリ断られた。ギルマスも居ない今、サブマスも不在となるなら私が残らないと纏め役が居なくなるって言われたら、それもそうかと思っちゃったんだよねぇ。
遠い目で王城内の立派な会議室で待機していると、男の人4人が1つ木箱をおそるおそる運んできた。そして会議室の大きなテーブルの中央にクッションを置き、その上に木箱から出した大きな玉を慎重に乗せる。
なんだろう、水晶玉かな? すごくキレイ。あの大きさでキズ1つないなんて、恐ろしく高いんだろうなぁ。落としたら怒られるじゃ済まないどころか下手したら首が飛ぶかも。
しかもちょっと光ってない? 魔力的な付加効果まであるんだとしたら、宝石としての価値にプラスしてものすんごい価値になりそう。
玉と言えば、冬になってから妖精様がギルド1階ホールに作った謎の照明魔道具だよ。魔石もないのに夜勝手に明るくなる。しかもあれ1つあるだけでギルド内が暖かいんだよね。おかげで今年の冬はギルド職員みんな快適に過ごしてるし、なんなら冒険者のみなさんも働かずにギルド内で温まってるよ。冬は良いけど夏はどうなんだろ。暑いのかも。
なんか嫌な予感がしてきたぁ。目の前のこの玉も妖精様が作ったとか言いそぉ~。
またしばらく待っていると、今度は文官さんたちの後に王太子殿下の婚約者であらせられる元聖女様が入ってきた。
「うほぁ!」
そしてテーブルの上に置いてある玉を見て変な声を上げた。高貴な人でも驚くとそんな声が出るんだなぁ。
「こ、これは光の玉ですか!? こんなに大きいなんて……! 聖王国のモノより一回り以上大きいですよ! あり得ない……、あり得ないです!」
え、聖王国の光の玉って、神話の時代から存在するっていう今現在人類が持つ中では最高峰に近い神器って有名なアレ? 聖王国を覆う人類最高クラスの結界の核になってるって言う。それよりも凄いのが目の前にあるコレ? 聖王国の元聖女様が言うんだから間違いないのかな。でも、あり得ないとか言ってるけど。
うーん、伝説に残る魔王や魔女に続いて人類最高峰の神器。いよいよ世界規模の話になってきたよぉ。人類史に残りそうな会議になぜか私が参加してるぅ。
もしかして妖精様がギルドの天井に取り付けた謎の玉も神話級だったりするのかな? どうしよ、ギルド本部にも王城にも報告なんてしてないんだけど。なんか暖かくなる便利な照明としか思ってなかったしぃ。とりあえず今は黙っとこぉ。だって今話すと絶対話がややこしくなるし。
その後始まった会議では聖王国よりも大きな光の玉が無造作に王城の外に落ちてたっていう事実が分かっただけで、それ以外はなにもかも謎のままだったよ。
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