197. 相談

「あっはっは! 確かにね! 外からの視点で改めて語られると、我が王族も奇想天外な集まりになったものだと思ってしまうね」


 カエラの言葉で王国での生活に不安を覚えた私は、その夜アーランド様に不安を打ち明けることにしました。かなりの勇気を持って相談に伺ったのですが、アーランド様は終始笑顔であまり深刻には受け取られなかったようです。



「いやいや、エフィリスの心配も理解できるよ。私は他の王族と違って妖精様の加護は受けていないからね」


 アーランド様はどこか遠くを見ながらあっけらかんとそうおっしゃられます。


「本当ですか? ある日突然、神獣に乗って帰城されたりすることもあり得るのでは、と私は思っておりますよ」


「あっはっは、ないなぁ。陛下やティレスが活躍した帝国兵襲撃時も、私はただただ避難していただけだ」


 私の問いかけに優しく笑いながら否定されます。その細まった目を見て少し驚きました。クロス聖王太子殿下がこのように目を細められるときは刺すような冷たさを感じたものでしたが、同じ細めた目でもここまで暖かくなるものなのですね。


「妖精様が現れてから私がやってきたことと言えば、豊作になった地から不作のままの地に食料を輸送させたり、気候が戻ったことによる気象被害予測とその対策、被害後の復旧リソースの割り当てとかそんなものだ。後は帝国との話し合いかな。裏方仕事ばかりで超人的な活躍なんて全くしてこれなかったよ」


 なんでしょう。顔は笑顔なのですが、どこか寂しそうにも見えます。アーランド様がされてきたという裏方作業も大変に立派なことだと思うのですが、もしかすると本人は第2王子殿下や王女殿下に憧憬の念を抱かれているのかもしれません。


「だから、エフィリスも大丈夫さ。しばらくすれば慣れるし、そして悟るだろう。私達とは役割が違うだけだってね。私は私にできることをやっていくよ。エフィリスにも無理せず自分にできることをやっていって欲しい」


 ああ、なるほど。この方も、今の私と同じような不安を以前に抱えられていたのでしょう。周りの人間が超常的な加護で素晴らしい成果を上げていくのに対し、ご自身は自分だけの力で地道にやっていくしかなかった。そこに憧れや嫉妬が生じない筈ないのです。


 そして今は、その悩みを乗り越えられた……、いえ、今も乗り越えようと足掻かれているのかもしれません。その足掻きがアーランド様に寂しさとして纏わりついているのではないでしょうか。私がこの方の寂しさをいくらかでも緩和できれば良いのですが……。


「分かりました、ありがとうございます。あまり気負わずに、まずは慣れることから始めてみようと思います」


「ああ、それが良い。明日の謁見後には王族で集まる時間もあるから、プライベートな話もできるよ。そのときに色々と話してみると良い。それ程おかしな人達じゃないことも分かってもらえると思うからね」


「はい」



「……それにしても、母上が魔女か。あはは、言われてみれば確かに魔女じみているかもしれないね」


「あ、あの……、御内密にお願いしますよ?」


 嫁ぎに来たばかりの国でその国の王妃殿下を魔女呼ばわりしたなどと広まれば、ただでは済まないことは私でも分かります。


「ああ、分かっているよ。お前達も他言は無用だ。ここでの会話はなかった。良いな?」


 すこし離れた場所に待機していた私専属のカエラと、アーランド様のお世話係と思われる執事が無言で頷きます。やってしまいました。話している内に2人きりの気分になってしまい、カエラ達の存在を忘れておりました。


 これまで専属侍女など付いたことがなかったため、ついつい従者の存在を忘れてプライベートな行動を取ってしまうことがあります。これも早く慣れていかねばなりませんね。



「ところで、何か他に困っていることはないかい? ウチは今人員不足でね、王族でも1人につき従者を1人付けるのが精一杯な状況だ。手が足りているか心配でね」


「いえ、問題はありません。1人付けて頂けるだけでも有難いですよ」


 なるほど、確かに帝国の皇族は従者を数人ぞろぞろと引き連れていました。文化の違いなのかと思っていましたが、単純に人手不足だったのですね。


 王都や王城内の発展具合を見ると、つい最近まで困窮していただなんてことは全く信じられないくらいです。何せもう日が落ちて暗くなったというのに、王城内の廊下は魔道具により昼間のように明るく照らされているのです。そのため人手不足と言われてもあまりピンと来ません。



「そうそう、なかなか切り出すタイミングが無かったのだけど……」

「何でしょうか」


 アーランド様が何か言い難そうにしておられます。これまでの話題以上に話し辛い話題とは何でしょうか、少し怖いですね……。



「えーと、うん。美しくなった。正直見違えたよ」

「へ?」


 聖王国では美容にはあまり気を使っておりませんでしたし、美しいなどと褒められたこともありませんでした。確かに、あの聖域のような湯船で湯浴みすることによりボサッとしていた私の髪はとても艷やかになったように思います。

 しかし、改めて言われると何と言いますか、こう……、言葉にできない感情が湧くものなのですね……。


「あ、あの、ありがとうございます」


 顔に火照りを感じた私は、その後逃げるように自室に引き上げたのでした。


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