196. 不安

 ドォォォンッ!!


「な、何事ですか!?」


 王国に着いて3日目、与えられた休養の最終日に翌日の謁見準備をしていると、突然の轟音が城内に鳴り響きました。状況が分からず胸が早鐘を打ちます。戦争は終わった筈ですが何者かの襲撃でしょうか。それとも何かの事故?



「外の者に確認させて参ります。エフィリス様はどうかご心配なさらぬよう」


 カエラが部屋の扉を開き、扉脇に立っていた2人の兵に指示を出したようです。そのうちの1人が情報を得てきてくれたようで、カエラが私に何が起きたかを報告してくれました。



「ティレス王女殿下がご帰還されたとのことです」


「え?」

予想外の報告に頭が混乱してしまいます。



「ティレス王女殿下とは、アーランド王太子殿下の妹君であらせられます」


「いえ、そこに疑問を抱いたのではなく……。先程の轟音は何だったのですか?」


 この国では王族が帰還すると轟音がなるのが文化だとでも言うのでしょうか。



「ティレス王女殿下がホールのドラゴンに驚いて攻撃魔術を放った音だそうです」

「ああ、なるほど……」


 どうやら長期不在から帰還したというアーランド様の妹君も、ホールのドラゴンのことは知らなかったのでしょう。私と似たような境遇になり攻撃魔術を放ったということですね。親しい間柄の者が居らず不安でしたが、なんだか仲良くなれそうな気がします。


 それにしてもこのカエラ、私の反応を楽しむためにワザと少しずらした話し方をしているのでしょうか。くすりとも笑わない彼女ですが、意外に笑いに飢えているのかもしれません。それとも純粋に話が噛み合わない性格なのでしょうか。



「妹君はまだ10歳程度だと聞いておりましたが、その歳で攻撃魔術を使えるとは非常に優秀なおかたなのね」


「ティレス王女殿下は西の地でエネルギア軍を退けた傑物でございますよ」


「エネルギア軍? 魔術大国のですか? 王国とは友好国だったと認識しているのですが……」


 王女殿下が10歳程度であり、その王女殿下が戦に参加されたということは、どれ程昔の話でもここ数年の出来事の筈です。と言うか、10歳程度の王女殿下が戦争に参加されたのですか?


「この秋にエネルギアが友好関係を破棄して攻めてきたのです。それを察知されたティレス王女殿下は単独でエネルギア軍に突撃して、ご自身ごと敵軍を焼き尽くしたのだと聞いております」


「え……」


 優秀とかそれ以前に、話を誇張するにしても発想が狂気じみてませんか? どうして幼い王族が1人で敵軍に突撃しているのです。それに、自分ごと敵軍を焼き尽くしたとか正気とは思えませんよ……。仲良くなれそうな気が全くしなくなりました。



い機会ですので第2王子殿下に関しても少しご説明差し上げましょう。クレスト第2王子殿下は東の地で対帝国戦の総大将として活躍されました。妖精様からは勇者の称号を頂いているそうです」


「え……」


 勇者はドラゴンを倒した国王陛下じゃないのですか? ドラゴンを倒した英雄が勇者ではないなら、その第2王子殿下はドラゴン討伐以上の功績があるのでしょうか。



 もう王国が全然分かりません。ドラゴンを討伐した勇者ではない国王陛下に、ドラゴンは討伐していないけれど勇者である第2王子殿下、そして敵軍を自分ごと丸焼きにした王女殿下ですか。


 お聞きしていないだけでアーランド様や王妃殿下にも、何か超人的なエピソードがあったりするのかもしれません。そう思えば王妃殿下は異常に若く見えました。とてもアーランド様くらいのご年齢のお子様がおられるようには見えません。昔、絵本で読んだことがありますよ。いつまで経っても歳をとらない恐ろしい魔女の話を……。



 ――この先、私は本当に王国でやっていけるのでしょうか。

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