184. 疲れる
「あの、よろしくお願いします」
「あぁ? なんじゃってー!?」
「お酒! お酒!」
「あの! よろしく、お願いします!」
「あぁ!? うるさいわ!」
「お酒! お酒マン!」
ドラゴン出現位置の調査に魔術師殿が来るとは聞いていたが、まさかこんな御老体が来られるとは。調査場所は結構遠いと聞いているのだが大丈夫だろうか。出発前から先が思いやられるぞ……。
しかも俺の周りを妖精様が飛び回っている。まさか妖精様まで来るとは思わなかった。さっきからずっとお酒お酒と言っているが、妖精様は酒が好きなのだろうか? そして鳥籠を持った侍女も居る。
「すみませんね。えーと、ダスターさんでしたか。魔術師団長様は今エネルギアに向かっておられるため、王城で知識のある魔術師は彼しか居ないのですよ」
随行する1人の兵が話しかけてくる。あまり人と話したくはないのだが、そうも言っていられない。この任務が終わるまでは会話も頑張らねば。
「あの……、東の国境線に居た魔術師殿達は? 戦争は終わったのですよね?」
「いえねぇ、そちらはエネルギアと帝国の大使にそれぞれ随行してますわ。戦争が終わっても人手不足は相変わらずですなぁ。はっはっは」
「なるほど……」
スタンピードの際に魔術師団長殿以外に魔術師が2人王城に居たと聞いている。その内1人は帝国の間諜だったらしい。そしてもう1人が彼と。スタンピード時に戦力として出てこなかった訳だ。これほど耳が遠いのであれば、満足に指示も聞き取れず現場は混乱していただろう。
「目的地までは妖精様が案内してくださいますよ。ドラゴン出現位置を知っているのは妖精様だけですからね」
「案内! 案内!」
「おいじーさん! 出発だぞ!」
「あぁ? 飯はもう食ったぞ!?」
そのまま幌馬車で目的地に向かう。朝の内に出発したため、昼過ぎには到着できるらしい。御者は兵がやってくれるようだ。
「お若いの、魔術はなぁ! 平和のためにじゃなぁ!」
馬車の中では魔術師の御老人だけがひたすら大声で喋り続けていた。俺はそれに頷くだけ。お若いのと呼ばれてはいるが俺もそこそこ歳だ。しかしそれを訂正する気にはならない。おそらく伝わらないだろう。侍女も一切喋らない。
「すみませんねぇ。彼、現役時代ずっと魔術師団長殿の絶叫を隣で聞き続けていたんですよ。それで耳が遠くなってしまったみたいで」
昼休憩時に兵がそんなことを言ってきた。なるほど、確かにあの絶叫をずっと聞き続けていれば耳もおかしくなるのかもしれない。スタンピードのときは頼もしく感じた絶叫だが、思わぬ被害者が居たもんだな。
俺達が携帯食料を食べる横で妖精様は小さなパン切れを食べていたが、食べ終わるとふいに何処かへ飛び立ってしまった。侍女が踊るような動作で慌てだす。それを見て妖精様が戻ってきた。
安心した侍女を置いてまた妖精様が離れた。慌てる侍女を見てまた戻ってくる。あれは遊んでいるな。自然と笑いが漏れる。この国も平和になったもんだ。
昼休憩後に出発してしばらくすると、妖精様が馬車を出て1ヵ所でぐるぐる周りだした。おそらくそこがドラゴン出現位置なのだろう。
「ドラゴン! 魔法陣、まわり、人、ぐるぐる!」
「ほぁー!? こいつぁすごい術式じゃぁ!」
「……えーと?」
「魔法陣! ぐるぐる!」
「おそらく召喚陣のことでしょうな。事前に少し話は聞いてきてまさぁ。その召喚陣の周りを術者が回っていたと。なぁ、じーさん! なんか痕跡とかあるか?」
「ああ? こいつは古代の召喚陣じゃ! 間違いない! ほぁー」
「じーさん、じゃぁやっぱり人為的にドラゴンが召喚されたのか?」
「ああ? 喋り掛けんな、わしゃ忙しいんじゃ!」
「あー……」
大丈夫かこの調査。
「お酒マン! あっち! あっち!」
妖精様が俺の服を引っ張ってくる。そっちに何かあるって言うのか。魔術師殿は兵に任せてそっちに行ってみるか。妖精様の先導に従って進むと侍女も付いてきた。と言うか、もしかして俺のことをお酒マンと呼んでいるのか?
「ここ! ここ! ここ掘れワンワン!」
「ワンワン? ……ってこれは、霊石か?」
ただの魔石とは違う。動く妖精様ドールの胸に付いていた石と同じだ。あれよりは大分小さいが間違いないだろう。その後も妖精様の先導で、召喚陣を中央に四隅から霊石を発見した。侍女と顔を見合わせる。
「おい、霊石だ。霊石があったぞ!」
「あぁ!? 誰じゃお前!?」
……この調査、疲れるなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます