183. 尽きない議題

「ふぅ、ワシはドラゴンと戦ったばかりなんだが。休養が必要だと思うのだよ……」


「何を言っているのですアナタ、傷1つ負っていなかったじゃありませんか。まだまだ決めねばならないことは山積みなのですよ」


 ぬぅ、妻からの扱いが酷い。どいつもこいつもワシをこき使うことを覚えよって。妖精殿の加護でワシが全く疲れんと思うておるようだが、普通に疲れるんだぞ。しかしたちの悪いことにどれだけ働いても健康は維持される。顔色も良くどう見てもまだまだ働けるように見えるらしい。



「そのドラゴンも、まだどうするか決まってませんでしたね」


「剥製にでもしてホールに飾っておけばええだろ。伝説のドラゴンまるまる1匹だぞ? 小分けにして素材として売るなど勿体ない」


 冒険者ギルドや商業ギルドに薬師ギルドまで素材を欲しがっておったが、小分けにすればその分事務処理が増えるではないか。それは面倒くさ過ぎる。


「なるほど、春になれば他国の使者が多く来ることになるでしょう。その際に伝説のドラゴンが剥製として飾られていれば、我が国の力も誇示できましょう。下手な調度品を揃えるよりも戦後復興をアピールできる筈です」


 宰相がワシの意見に賛同してきた。賛同者が出た時点で黙るのがコツだ。これで後の議論はワシ抜きで進む。下手に口出しなどしようものなら、全ての決定権をこちらに投げてきおるからな。


「ふむ、ではそのように。中の肉や内臓に関しては冒険者ギルドに卸しなさい。ドラゴンや帝国関連で冒険者ギルドには色々と動いて貰いましたからね。それで納得するでしょう」


妻の賛同も得た。これでこの話題は終わりだ。


「そう言えば、聖王国からの返信も来ておったな」

すかさず次の話を挟み議題を進める。さっさと進めてとっとと終わらせたい。終わった議題をダラダラと続けるなど許さんよ。


「はい。アーランド王太子殿下の婚約相手の打診の返信ですね。お相手はまさかの今代聖女エフィリス・ア・ラーバレスト様です」


「むぅ」


 アーランドはもともと南の国の姫と婚約を結んでおった。それが春に食糧援助に行かせたところ、食糧援助を断られるばかりか婚約すら白紙とされてしまっていたのだ。


 それもしょうがないかと思っておったが、今となってはアーランドの正妃枠が空きのままは不味い。来年春まで婚約も決まってない場合、妖精様の力を手に入れようと繋がりを求めてくる国が続出してくるだろう。野心的な国に断れない状況へ持っていかれると困る。そのため、帝国の東にある小国に婚約の打診を出していたのだ。



「結界を張って守りに徹し、ほぼ鎖国状態。経済や産業がほぼ自国内で完結していて他国に手を出さない。そのため妖精様の力も不必要に求めてこないと思って婚約の打診を出しましたが、まさか聖女を出してくるとは思いませんでしたわ」


 聖王国を選んだ理由は他にもある。帝国より東は野心的な国が多く古来より戦争が絶えず、領土を奪い奪われしておる。しかし帝国が間に居ることによって、それらの国が王国まで直接攻めてこなかったのだ。


 だが今回の戦争で帝国の力が落ち過ぎた。侵攻を撥ね退けるだけで良かったのだが、思いもよらず圧勝してしまったのだ。こうなると東の国々は帝国へ攻め入ろうとするだろう。帝国が落ちれば次は王国だ。そのため帝国には存続していてもらいたい。こちらに攻めてくる力は持って欲しくないものの、自国を守る程度の力は持っていて欲しいのだ。


 そこで目を付けたのが、帝国の東隣にある聖王国だ。この防衛に特化した小国が我々の味方に付けば、東の国々も帝国に手を出し辛いだろう。


 しかし色々と先を見据えて動く妻も、聖王国が聖女を出してきたのは予想外だったようだ。



「聖女を外に出して結界は問題ないのでしょうか? それに聖王国の結界技術は門外不出だった筈、我々に結界技術を渡すことになるのでは?」


 宰相が疑問を投げかける。ワシは答えん。空気に徹するのだ。


「おそらく結界の存続は、聖女の家系に他の女性が居れば問題ないのかもしれませんね。さすがに聖女を他国へ嫁に出したため結界が張れず滅亡しました、などという愚は犯さないでしょう。それに、結界は聖王国の何処かにある光の玉が核となっていると聞きます。聖女1人から漏れる情報は、それ程重要ではないのでしょうね」


 そろそろか、話を締めよう。そして有無を言わさず次の議題に進めるのだ。


「聖女はアーランドが迎えに行っておる。ひとまずはアーランドに任せようではないか」


「そうですね。今は王太子殿下にお任せする他ありません。この話は王太子殿下が聖女様をお連れしてお戻りになられてからにしましょう」


「聖女の迎えと言えば、クレストが行きたがっていたな。妖精殿のクレスト勇者発言、どうみる?」


 これまで一貫して無言だった妖精殿が、ガルム期以降に急にしゃべり始めたのだ。周りの人間の名前を呼んでいたものの、クレストにだけは勇者と言い放った。


「妖精様が第2王子殿下に勇者と発言した件ですね。勇者と言えば、伝承や絵本などでは対になるのが魔王の存在ですが……、史実には魔王の情報など残っておりません。御伽噺の類だと思われておりましたが、まさか魔王が誕生するのでしょうか?」


 宰相が困り顔になる。まぁ、こ奴はだいたいいつも困り顔だが。


「御伽噺と思われていたドラゴンが出たのです。魔王が出てもおかしくはないでしょう。それに、妖精様はクレストを色々と鍛えておられる様子。どちらにしても今は分かりません。見守るしかないでしょうね」


 ふむ、クレストが廊下を歩けば槍が突き出て、角を曲がれば落とし穴と、色々と妖精様にやられておるらしいが、ワシには悪戯にしか見えんのだが……。


「本気で鍛えるならあの果物を食わせれば良いのだ。何故そうしない?」


「妖精様には専属侍女を通して、不用意にモノを作らないように注意させてもらっています。妖精様がお作りになるモノはこの世界のパワーバランスを崩しかねませんからね。その注意を守って果物をお作りになられないのかもしれませんわ」


「ふむ、なるほどな」


 確かに、魔法が飛ぶ剣や食べれば超人になる果物、ドラゴンの炎に耐える盾に空を飛べる乗り物、なんでも斬れる小さな剣に透明化解除の薬、超魔術が使えるようになる首飾りからなんでも防ぐ結界魔道具まで、そして爆発暴走する人形、あんなモノが量産されてしまえば力関係がガラリと変わってしまうだろう。我々が気づいていないだけで、他にもあるのかもしれない。


 おっと、あまり考え込むと会議が長引く。次の議題に進めねば。


「では、ドラゴンの出現位置の調査の件だが……」



 まだまだ議題が尽きん。休養が必要だと思うのだがな……。


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