171. 責任

 ドサッ


 透明化が解かれた男が倒れる。あっという間に近衛が倒したのだ。近衛が倒した男が室内に2人、私が吹き飛ばした男が開け放たれた扉の前に1人、さらに最初にドアを攻撃したであろう魔術師が1人廊下の奥に倒れているのが見える。


「ふむ……、もう居ないようですね」


 しばらく室内を観察していた近衛がようやく一息つき剣を仕舞う。そして倒れている男達を拘束した。エレット付きの侍女に人を呼ぶよう頼み、廊下の奥で倒れていた魔術師も拘束する。



「どうやって相手の位置が分かったのですか? まるで相手が見えているようでしたが……」


「色々ありますよ。まずこの部屋と廊下には絨毯が敷かれています。相手が動けばそれに合わせ足型の凹みができていました。それから散乱した調度品、それらが動けばそこに誰か居るだろうと分かります」


「なるほど」


 咄嗟にそこまで観察できていたということか。近接戦に慣れた者は誰でもできることなのだろうか? 近衛はニーシェの様子を確認しながら、さらに続ける。


「絨毯でなく固い床の場合でも、相手が素人なら音で分かるでしょう」


「どれも難しそうですね。戦いながらとなると私にはできそうに思えません」


 会話を続けながらも近衛はニーシェの介抱を進める。私はエレットの傍へ行き、彼女の様子を確認した。震えてはいるが怪我などはないようだ。安心した。


「そうでもないかもしれませんよ。私は魔力を感じることができませんが、姫様は魔術を習得なされたご様子。たとえ姿が見えなくとも、魔力を感じ取ることで相手の位置を把握できたりしないでしょうか」


「なるほど……、試してみる価値はありますね」




 その後、襲撃者から鹵獲した透明化魔道具を使用して実験した結果、様々なことが分かった。まず、透明化魔道具は男達が羽織っていたローブそのものだった。それを羽織るだけで使用可能になるのだ。


 ただし、魔法は使えずともある程度魔力を持つ者でないと透明化できないらしい。近衛は使用できなかったのだ。魔法を使えないエレットが使えたことから、おそらく装着者の魔力をある程度使用して透明化するのだろうと予測できる。


 透明化、透明化解除はローブの首元を操作することで行えた。しかし透明化解除操作をしなくても一定時間が過ぎれば透明化は解除されてしまうらしい。自動解除されるまでの時間はどうやら使用者の魔力量で変わってくるようだ。この中ではニーシェが最も長かった。


 さらに、1度使えば再使用にしばらく時間がかかるようだ。連続使用してずっと消えていられるという訳ではないらしい。この欠点が分かったのは有難い。このくらいの欠点がなければ今頃王城の重鎮は全て暗殺されていただろう。


 また近衛が言っていたように、透明化していても相手が魔力を垂れ流していれば、魔力を感じ取ることで相手の位置が分かる。ただし相手が意図的に魔力を抑えていればほとんど分からなかった。エネルギア側も当然知っている筈で、透明化中は魔力を抑えて行動するだろう。


 衝撃的だったのは、汚れた水を掛けても数秒もすれば掛けた水ごと透明になり見えなくなることだ。これでは王都で話し合った透明化対策の一部は無意味になる。この透明化魔道具の情報は急ぎ王都へ知らせなければ……。



「判明したことをすぐに辺境都の重鎮達に知らせてください。王都にもです。それから私は……。いえ、あまり小娘が出しゃばるべきではありませんか。このままエレットと待機しておきましょう」


「姫様、あまり自分を卑下すべきではないですよ」

近衛が私の目を真っすぐに見つめながら諫言を呈する。


「城では無鉄砲だとか視野が狭いとか色々と注意を受けておられたようですが、卑屈になり過ぎるのも考えものです。それではますます下が付いてきてくれなくなります」


「む……」


「時には大胆に行動するのも宜しいかと。要はその責任を取ることができればいのです。姫様の行動に下々が良い顔をしないのは、その結果自身に責任が及ぶことを恐れているのでしょう」


 責任……、責任か。責任を負う覚悟。そうだ、その覚悟をしたことで王城襲撃は乗り切ったのではないか。


 よし……。


「シルエラを呼んでください。もう1つ試したいことがあります」

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