154. お菓子コンテスト

 教会でのなんやかんやがようやく終わって、また馬車に乗せられた。パレードの再開だ。


 街を見てるとみんな食べ物を買い込んでるね。保存食を抱えてる人が多い気がする。これから冬だから冬籠り用にいっぱい買ってるのかなぁ。


 こういうお祭り騒ぎで人がいっぱいだと、どうしても出てくるのがスリとかの軽犯罪者だよね。今も悪意みたいなのを点々とあちらこちらから感じるし、この人混みで虎視眈々と他人の財布を狙っているに違いない。しょうがないなー、ちょっと地図を出して知らせてあげようか。ほらほら、この辺とこの辺の赤い反応、たぶん盗人ぬすっとだよっと。


 すると、突然金髪兄さんが立ち上がって周りの人へ笑顔で手を振り始めた。銀髪ちゃんも体を被せてくる。ちょっとちょっと、地図が隠れてるって。ほらほら、赤い点があるよ? ほらほら……。せっかく教えてあげたのに、むー。



 パレードはそのまま中央広場に戻って、今度はフラッシュ様の演説が始まった。その間にすかさず金髪兄さんが兵士になんやかんや指示を出している。それを受けた兵が散っていった。国のトップが観衆の前に出るイベントって、きっと警護とかにも気を使うんだろうな。大変そうだねぇ。


 演説をボーっと聞き流しながら周りを観察していると、食事が配られているのに気づいた。広場の外周に並べられている机に食べ物が置いてあって、どうも無料でもらえるっぽい。いっぱい収穫したからみんなで美味しいモノ食べようってことかな。太っ腹だねぇ。



 一通りイベントが終わってフラッシュ様やドアップ様が馬車に戻っていった。金髪兄さんと銀髪ちゃんも馬車に乗り込もうとしてるので、私もその後に付いて行こうとしたんだけど、いつの間にか傍に来ていた鳥籠メイドさんが……。む、私は待機? あれ? 馬車が出ちゃうよ? ……そのままパレードはお城の方へ帰っていってしまった。


 そして広場の噴水を南側から西側へ移動、お酒マン像の前に設置された舞台に連れてこられた。私が舞台に上がると歓声が上がる。これは、これはもしや? ついに私が? ついに私が主役のイベントだーッ! 時代がようやく私に追いついた! いいねいいいね!



 舞台の上に設置されたテーブル、その上に置かれた私サイズの小さなテーブルと椅子。鳥籠メイドさんに先導されてその小さな席に着くと、私の前にお菓子のお皿が並べられた。お皿は6皿、それぞれ近くに文字の書かれたプレートも置かれている。えーと、各プレートの先頭の文字は1~6の数字だったハズ。


 なるほどなるほど、これは料理イベントだね。この状況から推測されるイベント内容は、1~6のお菓子を食べ比べして食レポする妖精食レポイベント、もしくは1~6のお菓子のどれが1番美味しいか決める料理バトル、または私がどれだけ食べられるかの大食いチャレンジ、はたまた私が誰かと早食い競争するとか……。目隠しで今食べたのは何番のお菓子でしょう?という料理クイズという線もある?


 いや、もしかして私はお菓子を食べられないという可能性もあるのでは? 私は食べずに誰かの料理バトルを審査する審査員枠という可能性だ。もしそうなら、そんなイベントは逃亡だよ?



 とか思っていると、鳥籠メイドさんが1番のお菓子を小さなお皿に取り分けて、私が座っている小さなテーブルの上に置いた。1番のお菓子はいつもの妖精印のクッキーだ。ついでにお茶も出してくれる。そしていつの間に居たのか、おじリーダーが司会進行していた。


 あー、おじリーダー! 収穫祭! そして6! 思い出した! 収穫祭で6がなんだとおじリーダーが言ってたっけ。あの時の話はこのイベントだったのか。収穫祭で6種類のお菓子を何かするイベントに出てねってお願いだったんだ。そっかー。



 で、私にお菓子が出されたことから、私が誰かの審査をする線は無くなったと。さらに1番のお菓子を出されていることから、たぶん1番から順に6番まで食べていくんだと思う。だから目隠しクイズの線も無くなった。せかされたりスタートの合図を出す雰囲気もないから、たぶん早食いでもないよね。少しだけ切り分けて出されたから大食いもないと思う。


 なので、食べ比べ食レポか、どれが1番美味しいかの料理バトルだ。1番美味しいのを選ぶだけなら簡単だ。言葉が分からなくても指させばオッケー。問題は食レポを求められてる場合だよ。どうやって感想を伝える? まぁ、食べてからノリと雰囲気でゴリ押せば良いか。



 ではさっそく1番、いただきます。うんうん、いつもの妖精印のクッキーだ。頷いていると鳥籠メイドさんが2番のお菓子を切り分けてくれた。白い粉のかかった何か。砂糖かな? む、甘くない。なんだこれ? 本体部分はほんのり甘く少し硬いスポンジ状で、上の粉はどちらかと言うと甘味を中和する甘くない粉。残念なのは私が妖精サイズだから、スポンジの気泡が大きすぎて柔らかさが感じられないことくらいか。はい、美味しいです。


 頷くと3番が置かれた。取り分けられた際に砕けていて、その欠片が小さなお皿に乗っている。ふむ、硬い系か。白いコーティングが硬いっぽいね。食べると砂糖の塊だった。中は少し苦みのある何か。あー、これは一緒に頬張れば美味しそうだね。ただ妖精サイズの私だと大きすぎて別々にしかクチに入らない。甘すぎる塊とちょっと苦い塊……。惜しい。


 また頷いて今度は4番、この匂いはハチミツ? ふむ、ハチミツっぽいような、メープルっぽいような何かが練りこまれた、かなり柔らかいクッキーのような焼き菓子だ。うん、普通に美味しい。妖精サイズだとクッキー系は有利だよね。


 そして5番。パイか。こし餡状になったカボチャのようなお芋のようなモノが詰まったパイだ。生地部分がミルフィーユっぽい層になってて、妖精サイズでは食べにくい。でかすぎるハンバーガーをどう食べれば良いか迷うように、このミルフィーユ部分をどう食べるかが問題だね。ミルフィーユの層から1枚剥がして中のカボチャ芋を付けて食べる。んー、甘くない、大人な味ってヤツか。でも結構美味しい。これを食べるときは甘いミルクティーと一緒が良いかもしれないね!


 と思ったら、もう一切れ用意された。こんどは中の方の部分だ。外側と中側で構成が違うパイなのかな。ぱくり。って、魚入ってる! このパイ魚入ってるよ! どうして余計なことしたの!? しかもちょっと生臭いし! はい、減点です。


 次、気を取り直して6番。遠目で1番高そうなヤツ。まず容器が高そう。これは期待。鳥籠メイドさんがその高そうな容器から少し掬って私に出してくれた。ぱくり。む、味はプリン……、食感はちょっとベチャッたケーキ。プリンを練りこんだスポンジケーキみたいな……、なんだこれ? とりあえず美味しいのでヨシ!



 さて、全部食べたけどこの後どうなる? 舞台端でずっと司会していたおじリーダーが観客を盛り上げていく。えーと、たぶん私のリアクション待ちなんだよね? 鳥籠メイドさんを見上げると頷かれた。いやいや、分からんて……。


 でもまぁ、普通に考えればたぶん1番美味しいヤツを決めれば良いんだよね? じゃぁ、6番。日本のコンビニに売ってても普通に通用する美味しさでした。私が指さすと喜ぶ人と残念がる人で、ワイワイしていた場がさらに盛り上がった。なんだなんだ、賭けでもしてたのかな?


 おじリーダーがなんやかんや言って、また私の方を見てくる。また私のリアクション待ち? えっと、最後の締めのあいさつかな? それとも2位を決めろって? 鳥籠メイドさんを見上げると頷かれた。だから分からんって……。


 よし、たぶん2位の発表だ。えーと、どうしようかな……。じゃぁ4番! ハチミツっぽい味に懐かしさが込み上げてきたという思い出補正もあるかもしれないけど、結構美味しかったです。私が指さして、鳥籠メイドさんがおじリーダーに伝え、おじリーダーが盛大に発表してまた盛り上がる。そしてまた私を見る。あー、これ最下位まで順位発表する系ね。なるほどなるほど、理解理解。


 じゃぁ3位は1番、いつもの妖精クッキー。食べなれた味って正義だよね。それから4位は2番、不思議な白い粉が良い感じのクッキーです。5位は砂糖コーティングの何か。妖精サイズでは不利な構造だったのが少し残念だったよね。そして6位はダントツ最下位の生臭なまぐさお魚入りカボチャ芋パイ。なんで魚入れたかなー。



 私の発表が終わると、製作者っぽい菓子職人さんたちが壇上に上がってきて表彰みたいなことをしだした。1位の人が喜んでる喜んでる。ニコニコで私に挨拶してきた。そして高々と掲げられる生臭なまぐさお魚パイ。


 え……、もしかして発表順位が逆だった? うわー、生臭なまぐさお魚パイが1位に輝いてしまったーッ!?


 ま、いっか。

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