151. エネルギア

 はるばるエネルギア王都までやって来たが、魔術大国と言っても魔術を扱う冒険者なんざ1人も居ねぇ。魔法職の数もファルシアンとそう変わらん。俺は魔法も使えなけりゃ魔力も感じることはできねぇが、質においても同じに見える。生活や文化全般においても魔法で便利になってるようには見えんが、……これが魔術大国?



「――なるほど、やっぱりあんたファルシアンから来たのか。元ギルマスだったなんて凄いじゃないか」

「そうかい」


 少し前に隣に座ってきた男が気安く確認してくる。行動範囲が広い冒険者なら見慣れない奴が酒場で飲んでいれば声を掛けてくるだろう。行先の情報を得られるかもしれんからな。冒険者において自分に関わる情報は重要だ。


 だが、目の前の男は遠出するような出で立ちには見えない。剣士装備だが動きが素人だ。体も剣士にしては細い。国外まで行動範囲を広げられる程の実力者には見えん。


 ……それも違和感と言う程ではないか。調査任務や護衛任務を中心に受ける冒険者なら、自分の行動範囲外の情報も熱心に収集している奴も多い。それに情報で儲けてる奴も居っからな。じゃぁ、この違和感はなんだ?



「俺は初めてエネルギアに来たが、ここは魔術大国と呼ばれてるんだろう? 魔術に関して他国よりどう優れてんだ?」


 男を横目で観察しつつ疑問をぶつけてみる。多少不躾な質問だが、向こうが既に無遠慮に質問してきた後だからな。遠慮はいらんだろう。



「ふ、気になるか? なら話してやろう。しかし長くなるぞ。まぁ飲め、奢ってやるよ」


 初対面なのに情報を渡した上で奢るって? えらい景気の良い奴じゃねぇか。装備も普通で稼いでるようには見えんが。なんだこいつ?


 ……今、酒に何か入れやがった。なるほどな。よそ者狙いの盗みか何か、最悪人身売買絡みかもしれん。早々に離れた方が良さそうだ。


「いや、明日もあるからな。話が長くなるなら今度にしてくれ。わりぃがもう帰るよ」


「――そうかい、そりゃ残念だ」





 翌日、適当な依頼を受けて外に出ると、つけられていることに気付いた。5人か。そう思い立ち止まった瞬間に目の前に炎が! 魔術だと!?


 咄嗟に地面を転がり直撃を避ける。そのまま転がって服に燃え移った炎を消して立ち上がり……と、同時に別方向からの炎。


 ちくしょう、少なくとも2人は魔術師か。しかもファルシアンじゃ滅多に見ねぇ高位魔術師だ。実戦で使える魔術を放てるってだけでも珍しいのに、動いてる的を正確に狙ってきやがった。さすが魔術大国ってか。


 もう1度地面を転がって魔術を避けつつ、起き上がり様に砂を掴む。この期に及んで前衛が出てこねぇってことは5人全員魔術師の可能性もあるだろう。まともに戦えば絶対に勝てん。


 街に向かって走ると3本の炎が襲いきた。避け辛いようにそれぞれが少しずつ狙いをずらしてあるな。合図もなしにここまでの連携が取れるとは相当訓練されてんぞ、こいつら。直撃コースの1撃に剣を投げつけ爆砕させる。残り2撃は多少食らうがしょうがない。


 そのまま駆け抜けようとするが、目の前を1人の顔を布で覆った魔術師が立ちふさがる。すかさず砂を投げつけ詠唱を妨害、剣は投げてしまったんで代わりに蹴り飛ばしてやった。訓練は積んでるようだが実戦慣れしてねぇな。


 エネルギアはここ数十年戦争がなかった。冒険者に魔術師は居なかったから、こいつらは冒険者じゃないだろう。つまり全く実戦経験が無いのか? これなら逃げ切れるぜ。


 と希望を持ったところで急激に眠気に襲われ膝が崩れる。


「ふん、やっと効いてきたか。炎の焦げ臭さで気付かんかっただろう? 睡眠効果のある粉を撒いてたのさ」


 こいつ、昨日の酒場の男か? 昨日は剣士装備だったが魔術師だったのか。どうりで動きが素人臭いと思ったぜ。しかし、これはヤバい……。もう、意識が……。



「手間かけさせやがって。おい、運ぶぞ。起きたら洗脳だ」


 ちくしょう……、ミスったな。


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