147. 練習

 えーとえーと、どうして私が……。


 私の前にはテーブルを挟んで王女殿下が座っておられます。そして目の前にはお茶とお菓子。一介の侍女に過ぎない私がどうして王女殿下とお茶会をしているのかと言いますと、練習相手だそうで……。非常に機嫌の悪そうな王女殿下が私を見つめてこられます。


 普段は私が下に付いてお仕事させて頂いているシルエラさんや、王女殿下付きのニーシェさんが給仕を務めてくださっていて、それだけでも恐縮なのに、お茶会のお相手が王族なんて……。




 妖精様の北方慰問から帰還した私は、翌日の今日、昼過ぎに演習場に呼ばれました。なんでも妖精様と長く共にすると魔法の才能が開花する可能性があるそうで、私が魔法を使えるようになったのかを確認されたのです。


 結果、私は水魔法が使えるようになっていました。両手一杯分の水が出せたのです。おそらく、あの大きな大きな海を見たおかげもあるのでしょう。目を閉じてあの海の光景を思い浮かべると、体の中の何かが、おそらく魔力が水に変わったのです。


 魔術と呼べるような強力な魔法は使えませんでしたが、私はとても喜びました。これで将来実家に戻っても領地経営を手伝えると思ったからです。嫁ぎ先でも役立つでしょう。


 しかし、水魔法で出した水が飲料や農業に使用できるかは人によるそうです。今後私が出した水を実験動物に与えて問題がないか、作物に与えて育つかなど、色々と確認していくことになるのだそうです。使えると良いなぁ……。



 そして、その場には非常に機嫌の良い王女殿下も居られました。そう、その時点では機嫌が良かったのです、非常に。王女殿下は妖精様から直接、耳飾りを頂戴されていました。その耳飾りをお付けになれば、強力な魔術を放てるようになると思っていたそうです、シルエラさんのように。でも王女殿下は魔術を放つことができませんでした。


 魔術にあまり興味のなかったシルエラさんが魔術師団長様並の魔術を放てるようになり、心から魔術を渇望していた王女殿下は魔術をご使用できないなんて……。妖精様はどういうおつもりなのでしょうか。妖精様がわざわざご用意された耳飾りです。きっと何かしらの意図があるのでしょう。しかし私には皆目見当もつきません。



「私達の年頃のご令嬢方は、お茶会でどのようなお話をされるのでしょうか?」

「……ぁ……ぅ……ぁ」


 王女殿下がお茶会の話題に関して尋ねてこられました。普段からムッとした表情の王女殿下ですが、同じ表情でも感じる威圧感が普段よりも格段に大きいです。お茶会の練習相手に選ばれたのは名誉なことではありますが、私にもお茶会の経験なんてほとんどありませんよ、王女殿下……。


 話題、話題……、あ! あるじゃないですか、妖精様の北方慰問という素晴らしい話題が!



「私にもご令嬢方の話題は知り得ません。ですので、代わりと言っては何ですが、僭越ながら妖精様の北方慰問のご様子をお伝えさせて頂いて宜しいでしょうか?」


「そうですね、お願いします」


 良かった! 若干険の取れた王女殿下から了承を頂いた私は、河や海、水門城砦や港町での妖精様のご様子をお伝えしていきます。王女殿下は妖精様が耳飾りをお作りになられるご様子を興味深く聞いておられました。


 妖精様のご様子はほとんど全て伝えましたが、伝えてないこともあります。言葉に関してです。シルエラさんは妖精様がお言葉をご認識されていないと思っているようでしたが、本人に聞いても濁されていたため王女殿下には黙っておきましょう。不用意に推測を王族に話すなど自殺行為ですからね。



 その後、王女殿下のことも色々とお聞きすることができました。収穫祭に合わせて集まった貴族令嬢とお茶会を開催されること、収穫祭が終わればガルム期前に西の辺境へ一時避難されること、などなど。


 避難とはなんでしょう? 近々何か起きるのでしょうか? お尋ねできる雰囲気ではなかったので、相槌を打つだけに留めました。


「なるほど、お茶会での話題をわざわざ探す必要はありませんでしたね。近況を話し合えば良いのです。それが分かっただけでもこの練習には収穫がありました。この調子で本番も宜しくお願いしますよ」


「……はい」



 ――え? 本番?


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