136. トロール
――ザシュ! ドスッ!
トロールの1体に致命傷を与えてすかさず走る。トロールは妖精剣の魔力に逃げるどころか、逆に積極的に襲ってきた。
ドスドスと音を立てて緑の毛むくじゃらの巨体が追ってくる。足音的に2体か。ふと見れば先程致命傷を与えた筈の1体も起き上がり始めていた。治癒力が高いとは聞いていたが、これほどか。
討伐依頼ではなく体毛の採取依頼のため、腕の1本でも切り落として終わりと思っていたが、これは討伐しないとおちおち採取もできそうにないな。腕を切り落としても体毛を採取する前に複数のトロールに囲まれて終わりだ。1匹だけ釣って確実に仕留めるしかない。
しかし妖精剣が邪魔だ。前からも別のトロールがやってきた。おそらく妖精剣の魔力が奴らの目印となっているのだろう。このままではトロールの大軍を引き連れることになってしまう。1度出直したいが、何体かは確実に連れ戻ってしまうだろう。仕方ない。
追ってくるトロールに向き直り戦闘態勢に入る。致命傷を与えてもすぐに回復するのだ。できれば1撃で仕留めたい。しかし、どうやったら倒せる? やはり町で情報収集しておくべきだったな。さすがに首を落とせば死ぬか? ――試してみるか。
相手の首の位置は俺が手を伸ばしてギリギリ届くかといった程に高い。首に斬撃を届かせるには、奴らが屈むかこちらがジャンプするしかないだろう、普通ならな。
走ってくるトロールの1体が足を踏み込み、その足が浮いた瞬間を狙って一抱え程度の岩を飛ばす。後ろに蹴り出した足に岩が当たり、自身の想定以上に足が後ろへ伸びたのだろう。トロールは慌てて地面に手を付こうとする。相手の動く方向へ力を上乗せしてやれば、少ない力で体勢を崩せるのだ。
上半身が倒れてくるのに合わせて首を飛ばす。さすが妖精剣、切れ味もなかなかだ。首のない巨体が音を立てて地に伏せた。もう1体に石礫を飛ばして動きを牽制しつつ、トロールの倒れた体と遅れて落ちてきた首を観察する。
回復するか? 回復するとしたら体から首が生えるのか? それとも首から体が? まさか首と体がそれぞれ回復して2体に増えたりはしないよな? ……どうやら死んだみたいだ。
しかし困ったな。周りにトロールが集まりだした。今や10体ほどに増えている。仲間がやられたからだろうか、より興奮しだした気がするぞ。
不用意に近付くのは危険と判断してか遠巻きに見ていたトロール達だが、そのうちの1体が岩を投げつけてきた。それを皮切りに他のトロールも様々な物を投げつけてくる。避けられる物は避け、避けることが難しい物は妖精剣で岩を飛ばして相殺する。しかしこちらが飛ばした岩が、奴らの弾として使われだしてしまった。下手に岩を出すのも考え物か。
できれば妖精剣で壁を作るのも避けたい。この剣で作った壁は勝手には消えてくれないからな。壁を作って放置したまま帰れば後々問題になるかもしれない。
近場のトロールが同時に岩を拾う動作に入ったのを見てそちらに走る。慌てて妨害に移ろうとしてきたが、目潰しに砂を広範囲に撒き、ついでに1体の脚を斬り飛ばしながら走り抜けた。
包囲を抜けたと思ったが、抜けた先にもトロールはかなりの数が居る。しかも最悪なことに、この先に人が居るようだ。行く手の先の土手にトンネルのような洞穴があり、そこに人影がちらりと見えた。地元の冒険者か? あちらに行くのはマズい。巻き込んでしまう。
俺は反転してがむしゃらに石礫を飛ばしつつトロールの群に突っ込んだ。進路上のトロールは斬り飛ばし、ついでに腕を1本頂いて行く。これで最低限の依頼は達成できたことになる。後は追いつかれないように森を出て、森の外まで追ってきた奴らを全滅させれば完了だ。
後ろに石礫を飛ばしながら走ったおかげか、森の外まで来たのは5体だけだった。動きの特徴や倒し方が分かれば、後は問題ない。さっくり倒して5体分の体毛を剃り上げるのだった。
なるほど、確かにあの妖精様の髪に似ている気がする。あの可愛らしいドールの髪がこんなむさ苦しい巨体の魔物の毛だと知れば、ドールの購入者達はどう思うのだろうな。
さて、今から戻っても町に着く頃には夜になってしまう。今晩はここで野宿か。雑食のトロールの肉はそれほど
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