135. 高難易度

「そこのお前! 止まれ!」


 門番の叫び声に従い歩みを止める。今日は町に入って宿を取るだけだと思っていたのに、さっそく予定が狂いそうだな。


 町に近付くにつれ分かったのだが、町門前は厳重警戒態勢のように兵が集まっていた。冒険者も相当数混じっているな。何か事件でも起きているのだろうか。


 町へ向かう者は俺以外にも居たのだが、そいつらは問題なく町に入れているようだ。冒険者だけを止めているのかとも思ったが、そうでもないらしい。



「動くな! 動くなよ!?」


 えらい警戒されているな。いったいどうしたと言うのだろう。俺は敵意がないことを示すために両手を上げて、3人の兵と1人の魔法職が近付いてくるのを待った。



「魔力の元はあの剣のようです」

「なに? つまりこの男は人間か?」


 一定の距離をおいて魔法職が妖精剣を指さし発言する。おそらく魔術師ではないだろう。装備が戦闘向きではない。地方では生活魔法が他人よりも得意な者が、火付けなどを生業にしていると聞いたことがある。王都ではほとんど王城に召し上げられるためにほぼ目にしないが、地方では稀にいるらしい。


 しかし、人間かどうかを疑われたのは初めてだな。どうやらその疑いも晴れたようだが……。妖精剣の魔力が近付いてくるのを感じて厳戒態勢を敷いていたのか? 強力な魔物に襲われるのかと思って?



「お前、何処から来た?」

「王都だ。冒険者ギルドの依頼で来た」


「王都だと? ……もしかして高名な冒険者様で?」


 依頼内容は聞いてこない。守秘義務があることが分かっているのだろう。しかし高名な冒険者か……。さてどう答えるべきか。自分的には高名な冒険者と公言するにはおこがましい気がする。しかしスタンピード防衛に貢献して表彰されたのは事実だ。あまり卑下して答えても迷惑だろうか。


「あ……、いや、スタンピード防衛には貢献したと思う……が」


 どうやったら上手く伝えられる? 卑下し過ぎず、かと言って驕った言い方にならないように……。やはり人に説明するのは難しい。



「おお、王都のスタンピード防衛に参加されたのですね! 王都スタンピードは1人の剣士が全てのオークを薙倒したと噂を聞きました。信憑性の薄い噂と思っておりましたがこの魔力! 噂は真実だったと!?」


 しまった、変な誤解を与えてしまったかもしれない。スタンピード後に訪れた教会で、既に嫌な予感はしていたんだ。教会に避難した一部の人間が、スタンピードの魔物を全て俺1人が倒したと誤解していた。しっかりと誤解を解いておくべきだったか。


「いや……」

「止めてしまって申し訳ございませんでした。ささ、町へ案内致しましょう」


「あの……」

「どうぞどうぞ、こちらへ」



 その後流されるように連れられて街の中へ入ったところで、なんとか衛兵と別れることができた。厳戒態勢で並んでいた兵や冒険者達の視線から逃げるように離れ、宿を取った。


 翌朝、最低限の食料や水を買い込み、これまた逃げるように町を出た。この町で情報収集するのは俺には難易度が高過ぎる。ただでさえ話下手なのに、変に誇張された噂で居たたまれない。妖精剣が魔力的に目立つため、目立たないように行動することもできない。


 でもまぁ、何とかなるだろう。俺はそのままトロールが居るという森を目指した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る