134. 欠点
妖精剣の欠点には、王都を出てから早い段階で気付いた。常時強い魔力が漏れ出ているようなのだ。
俺は魔力を感じることができないので分からなかったが、南東の森へ向かう途中に寄った町々で魔力を感じることができる奴らが驚いていたのだ。
俺の見た目はごく一般的な剣士の筈なのだが、非常に目立つらしい。魔法職ではない人間から強力な魔力が漏れ出ているという状況は異常なんだと。
魔力を感じることができない俺は初めて知ったのだが、魔法を使える人間はほとんど居ない割には、魔力を感じることができる人間はそこそこ居るらしいのだ。
王都では俺が妖精剣をもらったことを知っている奴らばかりで、さらには一応スタンピードを防いだ英雄とされていた。だからだろう、わざわざ妖精剣の魔力に言及してくる奴はいなかったのだ。
また、どうやら一部の魔物も魔力を感じることができるらしいことが分かった。道中全く魔物と出会わないとは思っていたが、路銀稼ぎに街道を逸れた際に弱い魔物が逃げていくのを目撃してしまった。妖精剣をもらう前はそんなことは無かったので、おそらく強い魔力を感じて意図的に避けられているのだろうと予想できる。
この欠点が今後にどう影響してくるのか考えておかなければならない。直近ではトロールに避けられるかもしれないといった数点の問題しかないが、長い目で見れば色々と不都合があるだろう。
まず、妖精剣を持ったままでの隠密行動は不可能だ。人間相手でも魔物相手でも居るだけで目立ってしまう。それに討伐依頼も不向きかもしれない。こちらが視認する前に討伐対象に逃げられてしまうのがオチだ。
逆に、薬草採取や護衛依頼では有難いだろう。魔物を寄せ付けず安全に依頼をこなせると思われる。襲われたら襲われたで、返り討ちにできる攻撃力もあるからな。
それから、妖精剣を受け取った際に王城からいくつか注意もされている。その中に妖精剣を国外へ持ち出してはいけないといった制約もあった。今後は不用意に国外へ赴く依頼は受けられないだろう。まぁ、今までも国から出たことなんて無いのだが。
正直言えばどこかに置いていきたい思いでいっぱいなのだが、王都であればいざ知らず、近場で妖精剣を預けられるような信用できるところは思いつかない。既にここまで来てしまった手前、このまま持っていくしかないだろう。この剣は普段使いには向かない。依頼が終わって王都に戻ったら普通の剣を買おう。
とは言え、妖精剣の効果は非常に優れている。石礫を飛ばす意思を持って振るえば石礫が飛び、飛ばないように意識して振るうとただの斬撃になる。さらには何も考えずに振るうと、状況に合わせて石礫を飛ばすかどうか剣が勝手に判断してくれるらしい。基本的には石礫が飛ぶのだが、石礫が出ると危険な場合などは出なくなるのだ。
なんとも摩訶不思議過ぎて原理は理解できない。ありのままを受け入れるしかないだろう。
イメージで石礫が飛んだり飛ばなかったりするということで、別のイメージで妖精剣を使うとどうなるかも試してみた。結果は上々、砂を撒き散らすイメージで振れば砂が撒かれ、大きな1つの岩をイメージすれば岩が落ちる。壁をイメージして地面を突けば土壁がせり上がるなど、規模に制限はあるものの、土属性であれば割と何でもありだ。
冒険者を引退して、この剣で出した石材を売りつつ余生を過ごすのも良いかもしれない。後は酒でも飲んでのんびりスローライフだ。とても魅力的に思えるな。まぁ、無理なんだが。今引退すると言っても、王城は許しても冒険者ギルドが黙っていないだろう。
俺も若い頃は上を目指していた筈なのに、いざ上になってみると楽することばかり考えてしまう。自分の努力で身につけた力ではないからかもしれない。調子にだけは乗らないように気を付けないとな……。調子に乗った奴から死んでいく、そんな昔の先輩の言葉が脳裏をよぎる。
そんなことを思って歩いていると、最後の町が見えてきた。ここが南東の森に最も近い町の筈だ。危険な森が近いからなのか、町の規模に不釣り合いな頑丈な石壁に囲まれている。
今晩はここで宿を取って、明日に情報収集と準備、問題がなければ明後日に森入りだな。トロールは自己再生能力の高い強力な人型魔物らしい。準備を怠ると痛い目を見るかもしれない。
失敗すれば今後生産される妖精様ドールの頭が、丸坊主になってしまうからな。
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