129. 臭い

「なるほど、分かりました。その子供達の剣、確かに調査が必要のようですね」

「はい。それで王城の方で調査をお願いしたいのですよ」


 私の説明に王女様が頷いて下さったので、すかさず対応を丸投げしてみる。子どもたちが振り回している何か凄そうな剣に関して、王女様と数人の王城関係者に説明したところだ。


 妖精様が絡んでいる可能性が高い案件と言うことで王女様直々にお出ましになられたときはビックリしたけど、話してみたら案外なんとかなるもんだよね。とか思っていたら、引き受けてもらう了承を得る前にドアがノックされた。



「どうした? ――なるほど」

お偉いさんが1人扉まで近づいて状況を聞いた後、今度は王女様に近づく。何か言伝しているようだけど、私には聞こえない。何かに了承したように王女様が頷くと、次に現れたのはなんと先輩だった。


「失礼します」

「わぁ。先輩、どうしたんですか?」


 緊張しながらも先輩が王城に来た経緯を話してくれる。透明になれる男が地下で何かしていたと言うのだ。冒険者を自称していたけど、調べてみると冒険者になったばかり。透明になれるって言えば、ザンテンさんが持っていた透明化の魔道具だよね。透明化の魔道具が1つだけなら、それを奪って行った存在かもしれない。つまり帝国の内通者だよ。


「では、その男が地下で何か目的を達成した可能性があると?」

「はい。機嫌よく高笑いしていたため、その可能性もあるかと」


 王女様がこちらに目線を向けてくる。


「彼女はどこまで?」

先輩がどこまで知っているかの確認だね。


「全く。知らせても?」

「……良いでしょう。どうやら観察力に優れている様子。知らせずにいて中途半端に把握されるよりは、情報を開示して力になってもらった方が良いですね」


「さすがです先輩! そんな些細な違和感から透明になれる男を特定したなんて、お手柄ですよぉ!」

これからは色々先輩に相談できるし先輩に丸投げできるよ! やったね!


「顔は覚えていますか? ――分かりました。その男の似顔絵を描かせましょう。それでは、画家が来るまでの間に現状を話せる範囲で話しましょうか」



 そうして先輩におおよそのことが説明された。辺境スタンピードは帝国が仕組んだ陽動だったこと、王都スタンピードは帝国が人為的に引き起こしたこと、スタンピードをどうやって起こしたかは王城が調べていること、バスティーユ元公爵が帝国に繋がっていたこと、民に帝国から攻められている事実を知られたくないこと、冒険者にも帝国の間諜が紛れていたこと、そのため冒険者を積極的に使えないこと、冒険者に扮した帝国間諜が透明化の魔道具を持っていたことなどだ。


 ただ、妖精剣の詳細、妖精様の地図の存在、帝国兵が地下から王城まで侵入していたことなどは伏せられた。



 その後画家が来て、先輩の説明を受けて件の男の似顔絵を描き始めた。もうちょっと眉はこう、もうちょっと目は細いなどのやり取りがあって、ようやく描きあがりそうっていうとき、またもやドアがノックされた。今度はドンドンと非常に強いノックだ。そして王女様がリアクションを起こす前にドアが開け放たれた。


「おう! 邪魔するぜ!」

「兄上?」


 くっさ! ゲロ以下の匂いがプンプンするよぉ! でも王女様が兄上と呼ぶってことは王子様だ。臭いなんて絶対に言えない! でもくっさぁ!!


「冒険者ギルドのサブマスが来てるって聞いてな! おう姉ちゃん!」

「……いえ、サブマスターはこちらです」


「マジか! おう嬢ちゃん!」

「は、はい!」


 王子様が冒険者ギルドサブマスターに御用? なにかやらかしちゃったっけ? あわわわ……。



「下水道に冒険者を派遣したか? っと、その前にお前ら2人はどこまで知っている?」


「えーと、2人とも帝国の件は存じております。下水道へは、昼前に王都に響いた謎の怪音の調査依頼は出しました!」


 ひぇぇ、目つき悪ぅ! ってそうか、この王子様は下水道に入っていたからこんなに臭いのか。ってことはあの怪音も王城絡み? しまった、安易に調査依頼を出すべきじゃなかったかも!


「冒険者4人組に帝国兵を見られた。その冒険者が戻ったらすぐに口止めしろ」

「承知しました!」


「下水道に入った冒険者は他にも居るか?」

「いえ、4人パーティー1組のみです」


 これには先輩が答えてくれる。いやぁ、先輩が来てくれてて良かったよぉ。私は依頼出したところまでしか知らなかったから、他にも居るかなんて聞かれても分からなかったからね。


「なるほど、分かった」

特にお咎めはなさそうだ! 良かったぁ。


「ところで、昼前に王都に怪音が鳴り響いていたのですが、何かご存じで……?」


「む? ああ、たぶんアレだ。魔術師団長殿の絶叫だな」


「あっ、あー、なるほど……、です」


 うっわー、そっかー。そう言えばあの魔術師団長様って魔術撃つとき絶叫するんだったよね。スタンピードのときもウワサになってたし。って、そんなの気付くワケないじゃん! いや、もう過ぎたことだよ。あれこれ考えるのは止めよう。今考えるのはどうやって帝国兵を見た冒険者をすぐに口止めするかだ。



「で、そっちは何の用だったんだ?」

王子様の問いに私たちは、子どもたちの剣の話と透明になれる男の話をした。



「なるほどな。よし、その男が高笑いしてたっていう場所に俺も行くぜ。下水の出口ってのも好都合だ。今はくっそ汚れてるしな、はっはっは! 案内しろ」


「兄上、話が急過ぎます。戻って来ない調査隊の救出はどうなったのですか? それにその豪華な盾のようなものは?」


「おう、調査隊の救出と帝国残存兵捕縛は明日第2騎士団に任せる。帝国側も下水では戦闘を避けてた。即刻死ぬような危険はないことが分かったからな。帰ってこれないのはアレだ。妖精のいたずらだ。この盾もたぶんそうだ。妖精のいたずらだ」


「……だいぶ説明が省略されているようですが、分かりました。詳細は後ろの兵達から聞きましょう。しかし、その汚物まみれの状態で街へ出歩くのは許されないかと」


「まぁ、そこは何とか説得しといてくれ。ほら、なんか凄い盾だ。これで母上のご機嫌を取っといてくれよな! よし、行くぞ!」


 王子様が王女様に盾を押し付ける。それにしても、このままこの汚れた王子様と同じ馬車に乗るの? うわぁ……。いや、私はその男が高笑いしていた場所って知らないんだよね。馬車も先輩とは別で来た。よし、私は行かなくても良いか。早く帰らないと業務も滞っているしね! それにほら、帝国兵を見た冒険者を口止めするって仕事もあるし!



「なにモタモタしている、ほら行くぞ!」


 ぎゃぁ! その手で私の腕を握らないで! ひっぱらないで! でも相手は王族! 我慢!我慢だよ!!


 あー、くっさぁ!


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