127. 冒険者
「まだ綺麗ッスねぇ、兄貴。前はめちゃくちゃ汚かったってぇのに」
「そうだな。逆流で洗い流されたか?」
俺達のパーティー4人は今、昼前に鳴った怪音の調査のため下水道を進んでいる。ちょっと下水に入って何の音か調べて戻るだけ。他のヤツらは汚ねぇから良い顔しなかった依頼だが、下水が綺麗になっていることを知っていた俺達にとっちゃ美味しい仕事だ。
逆流んときにガキ共が下水から河へ出て流されちまったからな。ガキ共が間違って河に出ねぇように下水内の一部を封鎖することになったんだ。俺達はそんときも下水に入ってて、その際に下水道が綺麗になっていることを知った。まぁ、綺麗になったのも妖精のせいなんだろう。不思議なことはだいたい妖精のせいだ。
1度入ってっから、入り口付近なら内部構造も把握している。あんだけデケェ音だったんだ。何の音かすぐ分かんだろ。
「あっれぇ……? こんなとこに鉄格子あったっスか? 時間が経ってあんま覚えてねぇなぁ」
弟分の1人が鉄格子を見つけて首をかしげる。俺の記憶でもここに鉄格子は無かったんだが……。あれからまた封鎖箇所を増やしたのか? まぁ、進めるとこ進んでくだけだ。問題ない。
「おう、こっちから行くぞ。ちゃんと地図に書き込んどけよ」
「お? 兄貴ぃ。あれ、ほら。あれ、妖精の野郎じゃねぇッスか?」
「なんだと? 妖精は今北に行ってんだろ、見間違いじゃ……。いや、妖精っぽいな。けどなんか違和感ねぇか?」
妖精が近づいてくる。よく見るとボロボロじゃねぇか。おいおいおい、片腕もげてねぇか? 何があったんだ? この妖精は街を救った英雄だ。そんな英雄が片腕もげてボロボロになってりゃ、下手したら王都がパニックになんぞ。
「兄貴、なんかヤバくないッスか? 雰囲気が鬼気迫ってるっつうか……」
「もしかして、前に捕まえようとしたことを根に持ってて、復讐するために俺達が
「んなワケあるか。何ビビってんだよ。ほれ」
ザンッ!
下水の底を調査するために持ってきていた長めの棒で妖精をつつこうとすると、妖精は手に持っていた剣で棒を斬り飛ばした。棒を持っていた俺の手には全く抵抗を感じさせずにだ。つまり、あの小っちぇえ剣はべらぼうに切れ味が良いってことか? 棒の切り口を見るとまっ平だ。
「おいおいおい、やっぱヤベェかも……。離れるぞ」
「うひー。あの妖精野郎、案外根に持つタイプだったんスねぇ」
速足でその場を離れると、今度は大勢の人の気配を感じる。なんだ? なぜ下水にこんなに人が居る?
「あれ、王城の兵士ッスか? 王城もあの音の調査に来てるってことッスかね。どうします兄貴」
「いや待て、あっちにも何かいるぞ。あれも兵士か? 装備が王城のじゃねぇな。うお、戦闘開始しやがった!」
調査のため下へ下へ降りてきてたのが幸いしてか、ここは坂道で、こちらは位置的にヤツらの上になる。まだこっちには気づかれてないハズだ。離れるか? いや、アイツらが音の発生原因の可能性もあんだよな。
「しばらく様子見すっぞ。王城側が勝てば話しかけて状況を聞き出せば良い。相手側が勝てばこのまま脱出してギルドに報告だ」
「あ、兄貴! 後ろ後ろ!」
「なんだ?」
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロッ!
なんだと!? 大岩が転がって来る!? あんなのに当たっちまったら即死だぞ!
「やっべぇ! 逃げろ! 走れ走れ!」
「ま、待ってくだせぇよ!」
「うひー!」
ちっくしょう! このまま行ったらあの戦闘のど真ん中に出ちまうじゃねぇか! だが止まったら岩に潰されて即死だ!
「あの真ん中を駆け抜けろ! 止まったら死ぬぞ! うおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「うわあああああああああああ!!」
「なんだ!? 止まれ! そこで止まれ! 敵と見なすぞ!」
戦闘中の兵士達がこちらに気付いて制止を要求してくるが……。
「止まれるかあああああああ!! オマエらも逃げろおおおお、岩に押しつぶされるぞおおおお!」
このまま行ったら下で戦ってるヤツらも何人かは巻き込まれる!
「その岩は軽い! 当たっても死なん! 止まれ!」
「んなワケあるかああああ、どけえええええええええええ!!」
あの岩の重厚感、後ろから迫る重低音、軽いワケあるかボケ!
俺達はそのまま敵対する2勢力のど真ん中を駆け抜けた。
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