125. 合流

「まてまてまて、よく分からん。意味不明過ぎる」

「はて?」

「はてじゃない」


 下水道に鳴り響いた怪音の発生源を目指した俺達は、調査隊の1隊と合流することに成功した。魔術師団長殿が居る隊だ。これで現在18人。


「では、初めから要約させて頂きますかな?」

「うむ」


 どこか遠い目をした魔術師団長殿が語り始めた。その哀愁漂う姿から、ここに至るまでなかなか大変だったのだろうということは理解できる。



「まずワシらの隊は、殿下の隊と共に王城から地下道に入り、途中で分かれて下水道へ入りました」

「うむ」


 そこまでは分かっている。1日目の途中までは一緒に行動していたからな。


「予定されたルートを探索しようと地下道を進みましたところ、鉄格子の位置を変えられるという進路妨害にあい、帰還することができませんでしたのじゃ」


「うむ、その妨害は俺達もやられた。昨日帰還できなかった理由は分かったぞ」


 おそらく他の帰還できていない隊も同様の妨害にあっているのだろう。ひとまず未帰還の理由が分かったのは良かった。



「で、2日目の本日にですな、帝国兵約50人と遭遇。戦闘になりました」

「その際に魔術師団長殿が魔術を放ったときの絶叫が、あの怪音の正体だったと」


 なんとも間抜けな話だが、それでこうして合流できたのだ。魔術師団長殿の絶叫も役に立ったとみるべきだろう。


「怪音……、いや、今は置いときますかな。それで、坂道で戦闘中に軽い大岩が坂の上から転がって参りまして」


「その大岩とは何だ? 軽いとはどういうことだ?」

説明を受けるのは2度目だが、やはり途中から話が意味不明だ。


「岩が何なのかは分かりませぬ。何故転がってきたかも謎ですな。大きさはこの通路横幅いっぱい程度。軽いというのはそのままの意味ですじゃ。ワシでも片手で楽々押し退けることができるほど軽いのですじゃよ」


「うーむ、分からんが分かった。それで?」


「転がってきた岩を回避するために敵味方入り乱れて乱戦、そこに妖精様ドールが現れて帝国兵を撃退。そのままワシらも妖精様ドールに撃退されました」


「そこだ。そこが分からん。意味不明過ぎる」

「はて?」

「はてじゃない」


 岩が転がってきたのも意味が分からんが、妖精人形が出てきたのも意味が分からん。さらには味方である筈なのに、こちらも撃退されているって? 魔術師団長殿のとぼけた顔を見ると俺の理解力が足りんのかと思ったが、周りの兵達も理解していない顔だ。良かった。



「その妖精様ドールってのは、王城襲撃時に帝国兵を引き付けたっていう妖精の人形か?」

「はい」


「では、その妖精人形がまたしても帝国兵を撃退してくれた訳だな。撃破ではなく撃退と言うからには、帝国兵は健在なんだな?」

「はい」


「うんうん。で、その妖精人形にお前らも撃退されたと?」


「そうですじゃ。いやー、ピカッと光ったと思えば魔術杖を真っ二つにされましてな。いつも愛用している標準杖じゃなく、狭所用の短杖で良かったですわい。さすがに愛用の杖を真っ二つにされていたら泣いてましたわ、はっはっは」


「いやいや、なぜ味方である妖精人形に襲われたんだ?」


 哀愁を漂わせながら豪快に笑うという器用な笑い方をする魔術師団長殿に、哀愁しかない兵達。その様相から相当大変だったのだろうことは分かるのだが、しかし全く理解できん。



「あの妖精様ドールはですな、周囲の動くものを敵味方関係なく襲うのですじゃよ。王城襲撃時の帝国兵を撃退後も、暴れる妖精様ドールを止めるために城中が大騒ぎでした。凄腕の冒険者の手を借りてようやく止められた程でしてなぁ」


「なんだその危険物。敵味方判別せずなんでも襲うって? 最早狂戦士バーサーカーじゃないか」


「はっはっは。しかも剣を持ってました。オークキングをスパスパ切り裂いたという妖精様の剣です」


「オークキングをスパスパ? ヤバすぎるだろ」


 なんでそんな危険物が下水道に放たれてるんだ? どこか手の届かない所に封印すべきだろそんなの。この下水道は街に繋がっているんだぞ。街に出たら危険だ。その人形は回収する必要があるな。



「とりあえず状況は分かった。意味は分からんがな」


 クソ、目標が増えたな。えーと? 帝国兵の対処に、他の調査隊の救出、それから妖精クソ人形の回収か。



「それから……」

「まだ何かあるのか?」


 分かれてから今までの流れは一通り聞いた気がするぞ。既に情報量が多すぎる。パンクしそうだ。


「はい。鉄格子の移動による進路妨害。これはおそらく妖精様のおこないでしょうなぁ……」


「なんだと? 何故そんなことをする?」


「妖精様は帝国の残党が下水道に残っていることを知っておられたのです。さらに再侵入を試みることを予想しておられたのでしょう。その妨害として妖精様ドールを放った上で鉄格子に工作されたのでしょう」


「それで俺達まで危険になってるんだが?」


「妖精様は我々が地下道に入ることを想定しておられなかったのではないですかな」

「うーん……」


 本当にそうか? なんか王国に都合の良いように解釈し過ぎていないか? そんなに全知全能なら、俺達が帝国兵侵入経路の確認に下水道へ入ることも予想できた筈だ。


 それが予想できていないと言うのなら、これまで聞いていた異様な程の先回りと齟齬が出る。予想した上で危険な人形を放り込んだのなら、それはそれでヤバ過ぎるだろ。


 いやいや待てよ。あの妖精は途中で逃げたとは言え、会議にも出ていたぞ。つまり俺達が下水道に入ることは絶対知っていた筈だ。その上で妖精クソ人形を放り込んだ。


 これ案外、面白そうだからってアホな理由だったりしないか? 今まで聞いていた異様な策士ぶりよりも、その方が絵本のいたずら好きな妖精のイメージに合う気がする。



 駄目だ、考えても分からん。今まで頭を使う作業は全部兄上に任せてきたからな。とりあえず今は現状打破に注力しよう。


「よし、一旦戻るぞ。明日になれば増員もできる。まずは情報を持ち帰ることを優先しよう。分からんことも多いが、それは頭の良い連中に考えさせよう」


「はい」

「承知しました」

「了解です」



「では行くぞ……、なんだ!?」

帰還しようとしたそのとき、暗い下水道内が昼よりも明るく照らされた!


「妖精様ドールだ!」


 何? アレが? ピカッと光るって言うから明るめの照明程度かと思っていたが、こんなに光量があるのか!? 異常な明るさはすぐにおさまったが、目の前に太陽が出現したようだったぞ!?



「危険です! 離れましょう!」

「わかった! おい、退避だ!」


 クソ、すんなり帰還させてくれそうにないな。魔術師団長殿は魔術杖を失って戦力にならない。なかなか面倒な状況になった。


 うーん、やっぱアホだと思うんだがなぁ。


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