124. 受付嬢は見た

「で、冒険者ギルド職員が探偵の真似事ですか?」

「そんなところです。しばらくここに居させてくださいね」


 東門の門番に無理を言って、通用門の端の影に陣取ります。このような状況が珍しいのでしょう。門番達から奇異の目で見られますが、あまりこちらに注意を向けて欲しくはありませんね。見つかってしまいます。



 追っていた男は先程東門から王都を出ていきました。途中、目的もなくうろつくような行動を取っていたため、その時点で私の尾行に気付いたのでしょう。


 尾行に気付いた人間が取る行動の1つとして、その場を離れたと思わせてから時間をおいて戻ってくるというモノがあります。ですので、あの男も戻ってくる可能性はあると思いました。東門以外から戻られたり、何日も経ってから戻られると分かりませんが……、しばらく東門で待ってみても良いかと思ったのです。



 ドボン……


 しばらくすると、河に何かを投げ入れたような音が聞こえました。大きめの魚かと思いそちらを見ますと、不自然な水の凹みが……。あれは何でしょう? 河面に穴が開いている? まるで透明な何かが河に刺さっているような……。



 その河面の穴は北へ向かってゆっくりと移動していきます。不自然な穴を追いますが、途中からは河に入らなければ進めません。……これは、躊躇しますね。流れは緩やかですが、足はつくのでしょうか? たとえ足がついたとしても、その後ずぶ濡れで帰ることを思うと河に入る気にはなりません。この河の水は下水が流されていることもあり、衛生面からも入りたいとは思いませんね。



 私が迷いながら見ていると、下水路の出口の前で不自然な水しぶきがあがりました。そして消える河面の穴。透明な何かが河に浸かって移動していた? そして下水路に這い上がった……。そのように見えましたが、透明な何かなど存在するのでしょうか? 一部の魔物は体を透明にできるそうですが、そのような脅威となる魔物は王都付近に分布していません。



「はははははは!」


 困惑して立ち尽くしていると、ふいに人の笑い声が聞こえてきました。あの男の声です! あの男は透明になれると言うのですか!? 1度東門から離れたと思わせて、透明になって戻ってきた!?


 これは大変なことになりましたね。人が透明になれる手段など思いつきません。一般人には到底無理な芸当でしょう。王城は透明になれるような存在と敵対しているのです。


 あれほど機嫌よく笑っているということは、何か目的を達成したか、そうでなくてもほぼ達成確実の状況となったのでしょう。これ以上は私個人ではどうしようもありませんね。


 この状況をあの子に伝えなければ……。

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